『死霊館 最後の儀式』はホラーとして物足りない? シリーズの締めくくりに与えられた意味

『死霊館』シリーズの完結を考える

 本作でも、例えば電灯を点いたり消したり、視線を往復させるなど、“繰り返し”の恐怖表現を用いていたり、パントリー(食品庫)のスペースの暗がりを利用した、闇への根源的恐怖表現など、効果的なシーンがあった。しかしそれは、ジェームズ・ワン監督がすでに提示していた演出の変奏といった趣きであり、オリジナリティには欠けるという評価に落ち着いてしまう。たしかに『死霊館』シリーズ“らしさ”はあるのだが、すでに開拓された場所にとどまっているのである。

 また、いわゆる「ジャンプスケア」といわれる、大きな音響や不気味な顔などで観客にショックを与える演出も多用してしまっているのも、本作の特徴だ。これは好みが分かれるところではあるが、一般的にジャンプスケアは、アイデアが希薄でも観客に恐怖を与えられる点で、安易だと判断される場合が少なくない。ジェームズ・ワン監督は、ジャンプスケア演出をおこなったとしても、そこには必ず新たな意匠、新たな表現へと繋がる革新性が加えられていたはずだ。

 それは前作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』(2021年)同様、マイケル・チャベス監督によるシリーズへのアプローチだといえるだろう。その点では、『アナベル 死霊人形の誕生』(2017年)に抜擢されたデヴィッド・F・サンドバーグ監督の才能が、ジェームズ・ワン監督に迫るものがあったことは言及しておきたい。それでもチャベス監督は、ジェームズ・ワンなどのプロデュース、物語づくりのもとで作品を撮っている。これがワン自身の仕事でもあることも確かなのだ。

 クライマックスにおいて呪いの家の全景や内外の様子をワンカットでとらえたアクロバティックなカメラワークは、演出のなかでは大きな見どころだといえそうだ。こちらはジェームズ・ワン監督からというより、『死霊のはらわた』シリーズのサム・ライミ監督風かもしれない。

 少なくとも、個人的にはホラー演出よりも、本作が本格的に取り組んだ“家族の物語”の方に印象的なシーンが多かったように感じられる。ジュディの恋人トニー(ベン・ハーディ)の登場により、エドと彼とがユーモラスながら緊張感ある関係となったり、それが変化していく様子、婚約指輪を卓球台に置いたままにしてしまうエピソードは、シリーズのなかで“普通の一家としてのドラマ”を際立たせている。

 きわめつけは、ロレインの持つ、おそろしいものを目の当たりにしてしまう能力が、幸せな夫妻の未来を予知することになる趣向だろう。本作では、同じ能力を持ってしまったロレインと娘ジュディとの繋がりが描かれる。ジュディは、その感覚のために子どもの頃から恐怖に追われ、悩まされていた。そんな呪いのような能力が、ここでは完全にポジティブなものとして扱われるのである。

 『死霊館 エンフィールド事件』(2016年)の基になったケースを現実的なアプローチで検証したドキュメンタリー、『エンフィールドのポルターガイスト』(2023年)が、Apple TV+にて配信中だが、この作品が指摘するように、怪異というのを科学的な視点から追究していけば、そのオカルト性に疑問符がつくことは避けられない。心霊研究が科学的な分野に進出することで逆に心霊研究家への懐疑や反発が強くなるのも、ある意味当然のことだといえよう。本作での夫妻の社会的立場を描写した箇所は、そのことを表現してもいる。

 また、心霊的な感覚や怪異は、“集団幻覚”ととらえられたり、精神的な疾患だと考えられているところもある。とはいえ、劇中のロレインやジュディが、たとえそういった状況にあったとして、それを乗り越えていくストーリーだと本作を解釈することも可能なのかもしれない。だからこそ本作がシリーズに与えた、能力者に与えられる“普通の幸せ”に意味が出てくるのだ。そして、ロレインを守るエド、ジュディを助けるトニーのように、パートナーの存在が、彼女たちをサポートする上で重要となる。

 12年にもおよぶシリーズが、ホラー映画としての面よりも、こうしたロレインとエドの協力関係に収斂し、怪異とは隔絶されたロマンティックな表現、パートナーへの献身、家族間の愛情と信頼の描写で幕を下ろすのは、観客にとっても、魔が払われ浄化された気分になるはずだ。その意味において、本作はシリーズのファンにとって意味深いものとなったのではないだろうか。

■公開情報
『死霊館 最後の儀式』
全国公開中
出演:ヴェラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン
監督:マイケル・チャベス
脚本:イアン・B・ゴールドバーグ、デヴィッド・レスリー・ジョンソン、リチャード・ナイン、ジェームズ・ワン
製作:マイケル・クリアー、ピーター・サフラン、ジャドソン・アーニー・スコット、ジェームズ・ワン
配給:ワーナー・ブラザース映画
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