テレンス・ラウ×フェンディ・ファンの絆に涙 『鯨が消えた入り江』が描く愛と喪失の旅路

香港と台湾を舞台に真夏の奇跡を描くロードムービー『鯨が消えた入り江』が、8月8日より2週間限定で公開中。心に傷を負った香港の人気作家・ティエンユー(天宇)と、孤独に生きてきた台湾の青年・アシャン(阿翔)が引き寄せ合うかのように交差し、2人が辿るひと夏の旅が詩的な映像美で映し出される。鮮やかな海辺、緑に囲まれた滝、静かな温泉地……ノスタルジックな美しい情景が広がり、ひと夏の尊さと儚さを際立たせている。
日本でも大反響を呼んだ『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(以下、『トワイライト・ウォリアーズ』)の信一役で人気急上昇のテレンス・ラウ(劉俊謙)と、『HIStory2 越界 ~君にアタック!』の夏宇豪役でブレイクしたフェンディ・ファン(范少勳)による共演が実現した本作。一部劇場では連日の満席に加えて上映回数の増加、SNSでの口コミなど大きな盛り上がりを見せている。Netflixでも配信されているが、劇場版では翻訳の違いも楽しむことができ、ED曲に歌詞の翻訳が付いているのも嬉しい。

本稿では、繊細に描かれるティエンユーとアシャンの関係性を深掘りし、味わい尽くしたくなる作品の魅力を紐解いていく。
新作小説に盗作疑惑が浮上し、世間から激しいバッシングを浴びて心に傷を負った香港の人気作家・ティエンユー(テレンス・ラウ)。かつて文通していた少年が語ってくれた、天国に繋がるという“鯨が消えた入り江”を探しに、ひとり台湾へと旅立つ。しかし、ティエンユーは慣れない異国の地でぼったくりに遭い、台北の繁華街で酔い潰れてしまう。そんな彼を助けたのは、地元のチンピラ・アシャン(フェンディ・ファン)だった。ティエンユーが旅の目的を打ち明けると、アシャンは「その場所を知っている。お前をそこに連れて行ってやる」と請け合う。こうして、心に傷を負った作家と孤独に生きてきた青年の旅が始まるのだ。邦題は『鯨が消えた入り江』であるが、原題は『我在這裡等你 A Balloon's Landing』。“我在這裡等你”=“ここで待ってる”という意味を心に留めておくと、見える景色が深みを帯びてくる。

実のところ、筆者は『トワイライト・ウォリアーズ』のラウから『鯨が消えた入り江』へと導かれたのだが、気がつくとラウとファンの親和性にも心を奪われていた。それぞれ容姿が極めて端麗であることも作品に引き込まれる要因のひとつだが、ティエンユーとアシャンの視線や表情、共に過ごす時間の積み重ね、静かに内包する巨大な感情に掻き乱されてしまう。この物語の構図を知ると2周目以降は全く違って見えてくるのだが、「そういうことだったの⁉︎」という気づきの連続のなか、役を生きるラウとファンに何度も涙腺を刺激されるのだ。多くを語らずとも双方の心境や背景を物語ってくれるラストにも心を打たれて余韻が続く。
ティエンユーを演じるラウは、『トワイライト・ウォリアーズ』で信一役を務め、ボスである龍捲風への忠誠心や仲間と友情を育んでいく熱い内面を表情に滲ませていた。バタフライナイフを自在に操り、オートバイで城砦内をワイルドに走り抜けていたが、『鯨が消えた入り江』では心に陰を落とす小説家・ティエンユーを繊細に演じている。アシャンへと心を開いていく過程でいつしか瞳に温度を宿し、柔らかな感情を見せるようになっていく。『トワイライト・ウォリアーズ』で若きリーダー格として生きる信一とは全く異なる風情を見せてくれるが、いずれもラウの凛とした美しさが根幹にある。
一方でファンが演じるのは、台湾にやって来たティエンユーに手を差し伸べる地元のチンピラ・アシャン。太陽のような笑顔が愛くるしい善良で誠実な青年である。ファンは孤独が潜むアシャンの明るさを自然に体現し、光の中で消えてしまいそうな儚さをどことなく感じさせている。表情や言動にわずかな含みを持たせており、本作を観返す際にはあまりにも健気なアシャンから目が離せなくなった。





















