『ばけばけ』“小泉八雲”の由来と帰化をめぐる史実 トキとヘブンが直面する戸籍問題とは

『ばけばけ』小泉八雲の由来と史実

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第23週「ゴブサタ、ニシコオリサン。」では、トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の国籍を決める手続きのために、松江に帰ってきた松野家の人々が錦織(吉沢亮)やサワ(円井わん)たちと久々の再会を果たす。

 一時はヘブンがフィリピンへと旅立ってしまうのではないかとハラハラしていたが、トキが妊娠して赤ん坊を出産したことも重なり、彼も父親としてずっと2人のそばにいることを決心したようだった。穏やかで幸せな時間が流れる松野家。しかし、ここで問題となったのが、生まれた息子の戸籍がイギリスと日本のどちらになるのかということだ。

 トキとヘブンは出雲大社で錦織に見守られながら夫婦になった。つまり正式に婚姻関係を結んだわけではない。あまりにも自然な流れで2人がいっしょに暮らすようになったのですっかり忘れていたものの、遺産の相続問題や戸籍の変更は今後のことを考えると、熟慮しなければならない選択だ。

 実際、ヘブンのモデルとなったラフカディオ・ハーンは、妻の小泉セツと正式に結婚した際に日本国籍を取得し、小泉八雲という日本名を名乗っている。のちに彼の代表作となる『怪談』や『骨董』を執筆した際にも用いられているが、ペンネームではなく歴とした本名だ。

 彼が日本に帰化する決断を下した理由には、やはり妻と息子の存在があった。第1子を授かったことで、43歳になった自分がこの世を去った後の2人の未来を憂慮した八雲は、残された家族に財産を相続するための手立てを考える。それが旧民法下における「入夫婚姻」という形をとって、幼い息子といっしょに妻の戸籍に入ることだった。外国人としての特権を失い、簡単には外国に渡航できなくなってしまうものの、それでも構わないと思うくらい、2人の身を案じていたのだろう。

 そして、日本名である小泉“八雲”という名前は、彼らが過ごした松江の旧国名である出雲の枕詞「八雲立つ」から取られている。親友のヘンドリックに宛てた手紙の中でも「『八雲』とは『出雲』ということばの詩的な代用語で、『雲がわき出る国』という意味であり、わたしがもっとも好きな地方名なのです」(※)と自身の名前の由来を明かしており、文面からも彼がどれほど松江という地を愛していたのかが伝わってくる。

 また「八雲立つ」という枕詞が用いられた和歌の中には、現存する日本最古の書物『古事記』でスサノオノミコトが詠んだ「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」がある。ハーンはニューヨークで英訳された『古事記』を読んで感銘を受けたことが人生の転機となり、日本への思いを募らせた結果、特派員として来日するに至った。“八雲”という名前は彼にとって、まさに日本を愛する気持ちを象徴するような言葉でもあったのだろう。

 第111話でトキとヘブンが授かった第1子は「勘太」と命名された。ヘブンが生まれたばかりの勘太を溺愛している様子はなんとも微笑ましい。松野家で暮らす人々の幸せそうな表情を眺めていたヘブンは、イライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)宛ての手紙にフィリピン行きを諦める旨をしたためて、未知なる世界の風景が描かれたイラストを燃やした。その瞬間にヘブンは日本国籍を取得して、日本人になる覚悟を決めたのだろう。

 しかし、トキとヘブンが籍を入れるためには、松江市役所での手続きに加えて、知事の承認が必要になる。島根県知事の江藤(佐野史郎)は、ヘブンが松江を離れて熊本に旅立ったことを良くは思っていないだろう。別れの際には確執が残った唯一無二の親友・錦織との再会も気になるところで、今週も目が離せない展開が続きそうだ。

参照
※ https://www.nippon.com/ja/views/b07208/?pnum=2

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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