子安武人、『ファンタスティック4』で披露した“ヴィラン”じゃない一面 自身の“家族愛”も

7月25日より公開中のマーベル・スタジオ最新作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』は“家族の絆”をテーマに、巨大な敵・宇宙神ギャラクタスから地球を守ろうとする“ファンタスティック4”の活躍を描く。その中でチームのリーダーであり、天才科学者であり、スー・ストーム/インビジブル・ウーマンのパートナーであるリード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティックは最も多角的な描かれ方をしているキャラクターと言えるだろう。そんなリードの日本版声優を担当したのは、これまでの長いキャリアにおいて“ヴィラン”役を演じることが多い印象の子安武人だ。
今回の収録にあたって、“はじめて”だった体験や自身の役への理解、同じ父親としての眼差しを語ってもらった。
30年以上の芸歴の中で“初めて”だらけだった『ファンタスティック4』
ーーマーベル映画の吹き替えは、『ソー:ラブ&サンダー』のゴア役以来となりますね。リード・リチャーズ役が決まったときの気持ちから聞かせてください。
子安武人(以下、子安):おっしゃっていただいた通り、前回はヴィランの立ち位置でした。今回は、ヒーロー役だったので、「えっ、これヤバいな。大丈夫かな?」っていうのが第一印象でした。でも、実はすごくヒーロー役がやりたかったんですよ。だから嬉しいけど、同時にプレッシャーみたいなものも感じました。
ーーそうですよね。これまでの作品でもヴィラン役の印象が強いと言いますか……。
子安:そうなんですよ。別にヒーローをやってないわけじゃないんですけど、どうしてもヴィラン役をやっているときの印象がみなさんの中で強くあるみたいで、そちらにどうも引っ張られるんですよね。僕自身は全然優しいし、思いやりもあるし、どう考えてもヒーローなんだけど……と思いながらいつも過ごしているんですけど(笑)。だから「あっ、もしかしたらチャンスかもしれないな。これでもしボイステストに受かることがあれば、ヒーローをやっている自分をちょっと知ってもらえるチャンスになるかも」と思いました。
ーー実際に吹き替えの声を拝聴しましたが、とても優しい印象でした。ペドロ・パスカルの演技に合わせた上で、何か意識されたことはありますか?
子安:この仕事をもう30年以上はやっていますが、今回は初めてのことがたくさんあって、今までに経験したことのない収録でした。ペドロさんの第一印象の見た目の雰囲気って、割と渋くてカッコいいおじさまじゃないですか。ただ、「渋めの顔のイメージに声を合わせないでください」と言われて。低くてちょっと渋いロートーン、あと「声を響かせることもあまりしないで」と、中音くらいの指示を最初にいただきました。僕個人も実は声が決して低いわけではなく中音くらいなんですけど、ちょっと低めに響いたり聞こえたりするときがあるんです。その際はアフレコで実際に吹き替えをしているときに「もう少し柔らかく、優しくしていただけると」と指示がありました。
ーー結構細かく指示があったんですね。
子安:はい。少しでも声に圧が出ないように担当の方は気にされていました。「もうちょっと普通の感じで。なぜなら彼はまだ“ヒーロー”ではないから」みたいな。そういうことにすごく気をつけながら吹き替えをやっていました。ある意味、何かをやっても逐一指示が返ってくるので、そういう面では安心しました。だからと言って、「これが好みかな」と向こうの好みに合わせるようなお芝居はする気はありませんでした。一応こちらからも提示して、お互いやりとりを重ねながらの収録でしたね。すごく大変でした(笑)。指示がもらえることは安心するけど、そこに頼りすぎると作業的なことになっちゃうので、絶対そうはしていけないという気持ちとの戦いでしたね。
ーーその中で、子安さんご自身が考えるリードを演じる上でのアプローチについて聞かせてください。
子安:やはりペドロさんが今回リード・リチャーズというキャラクターを完全無欠のヒーローとしてお芝居されていなくて、あくまで科学者として、そして家族を、妻をすごく愛しているという振る舞いなんです。だからヒーローというより、ただ一般人が力を手に入れて、たまたま強くなっている。それによって何か覚醒して考えが変わるというより、科学者としての考えの延長線上にいるから、理系的な考えと言いますか、思考が合わなくなって揉めたり喧嘩したりする。そういうことを普通の男性としてペドロさんが演じているんだろうな、とみんなが共通認識として持っていました。そこを演じてほしいということで、僕もペドロさんを吹き替えるのではなく、彼のリード・リチャーズのお芝居を“拾う”ことをしました。声質が合っているか合っていないかの問題ではないんです。それならたぶん僕はそもそも選ばれていないので。彼がどうリードを演じるのか、そこのお芝居をどう表現するかを考えながら吹き替えをしました。
ーーリードのキャラクターとしての印象はどうでしたか?
子安:僕はリードのような理系脳ではないので、割と自分とは逆の印象でしたね。なんでもうちょっと人の気持ちに寄り添うような言動ができないんだろうって思っちゃうくらい、彼はできないんです(笑)。たぶんそういう選択肢がないんですよね。そういうふうに生活していないし、育ってきていない。それがリードだと思うんです。だから「それは違うんじゃない、ちょっと配慮足りないんじゃない」って僕が彼に思うことが重要であって。それ(逆)をやればいいだけなので、逆のアプローチの仕方で彼を理解しようとしました。本当に不器用というか、迂闊というか(笑)。でもすごく妻のことを愛していて、物語の中でトラブルがあっても、妻のことを大事にしていることがわかってから役への印象も変わりました。





















