古屋呂敏、創作への情熱と等身大の想い 「綺麗事じゃなく、“誰かのエネルギー”になれたら」

29歳で本格的に俳優業をスタートさせ、現在35歳の古屋呂敏。「もっともっと」という貪欲さで駆け抜けてきた6年間で、連続ドラマへの出演からドラマ初主演、そして話題作『サラリーマン山崎シゲル』実写版の主演まで、着実にキャリアを重ねている。俳優業だけでなく、モデル、フォトグラファー、映像クリエイターとしても活動する彼の原動力は「誰かの心に触れたい」という想い。6月13日に発売された写真集『MY FOCAL LENGTH』、東京・大阪で開催の写真展と、表現者としての新たな挑戦も続く。古屋が語る、創作への情熱と等身大の想いとは。
「40歳、45歳の輝きを求めていきたい」

――『サラリーマン山崎シゲル』は、サラリーマン「山崎シゲル」が部長相手に繰り広げる異常な日常をシュールな一コマで描いた漫画です。リアルだけどリアルではない、ギャグ様相の強い作品なので、実写化されると聞いて、個人的にとても驚きました。
古屋呂敏(以下、古屋):僕もビックリしました。このお話があって、あらためて『サラリーマン山崎シゲル』のInstagramを見ていたら、もう止まらなくて。果たしてこれをどう実写化するのか、この空気感をどう映像化するのか……とてつもなく難易度が高いなと思いました。かなりの本数のショート動画を撮影させてもらったんですが、今までのお芝居とはまったく別のベクトルで向き合わなければやっていけない。1日10本ずつ程度の撮影でも、カット割りや香盤表が不思議なことになっていて(笑)、チャレンジングで面白かったです。
――ふだんのドラマとは別物ですね。
古屋:まったく別物です。「このセリフを言う意図は何なのか」「その背景は」とか考えると、もう迷宮から出られなくなっちゃうので(笑)。山崎シゲルくんの考えていることなんて、到底理解できないんですよ。

――役者さんは、よく「共通点を見つけて役作りを」とおっしゃいますが……。
古屋:全然なかったです。僕、まともでした(笑)。ちゃんと人間、やっていましたね。それに気づくことができました。
――(笑)。挑戦的ですが、撮影は楽しそうですね。
古屋:とても楽しかったです。セリフが終わっても監督がカメラを止めないので、そこからは部長役の小手(伸也)さんとのフリースタイルというか、「さあ、どんな山崎シゲルが出るんだ」「どんな部長が出るんだ」と、お互いにジャブを打ってみたりして。でも、小手さんがすべてホームランを打ってくださるので、本当に救われました。小手さんがずっと部長でいてくださったおかげで、僕自身も山崎シゲルを楽しむことができました。

――斎藤工さん、原田泰造さん、加藤諒さん、JOYさんをはじめ出演者がとても豪華で、「きっとこの作品に出たいと思っている人たちが集まったんだろうな」と感じました。
古屋:まさにそうだと思います。斎藤工さんが本当に原作の大ファンで、最初は「部長がやりたい」とおっしゃっていたみたいです(笑)。加藤諒さんやあぁ~しらきさんも面白くて、和気あいあいと撮影させていただきました。その中で斎藤工さんが「山崎シゲルだよ」と褒めてくださったことが、すごく嬉しかったですね。

――原作ファンに褒められると、自信になりますよね。古屋さんは2023年にドラマ初主演、2024年に連続ドラマ初主演。そして2025年には『サラリーマン山崎シゲル』をはじめ多くの出演作が控えていますが、この流れを振り返っていかがですか?
古屋:僕自身、29歳で役者を本格的に始めて今34歳なので(取材当時)、他の役者に比べるとスタートが明らかに遅いんですよ。なので、ここまでスピード感を持って到達したとは思っていなくて、むしろ「もっともっと」「まだまだ足りない」という思いが強いです。スタートが遅かったことをマイナスには捉えていませんが、「早く始めた子たちがうらやましいな」とは思いますね。その年齢でしか出せない輝きがあって、僕にはもう高校生役はできないので。ただ、僕は他の子たちが経験できなかったことを経験しているので、戦い方次第だなと。ここから40歳、45歳の輝きを求めていきたいと思います。

――俳優としての活動を続ける一方で、古屋さんはモデル、フォトグラファー、映像クリエイターといった顔もお持ちですが、そこは貪欲に?
古屋:わがままなんですよね(笑)。本当に貪欲だと思います。楽しいことが好きで、それを止めるストッパーがないんですよ。やりたいことをすべてやりたい、自由に生きたい。ちょっとマグロっぽいですね。泳いでないとダメというか、止まったら死んじゃいます(笑)。
――(笑)。いろいろなことに好奇心がある中で、役者を選んだのはなぜですか?
古屋:“表現していて楽しい”というのもありますが、やっぱり“誰かの心に触れる接地面が多いから”かなと思います。写真で誰かを感動させることもできるけど、ちょっと種類が違うじゃないですか。役者として、直接誰かの心に触れる、心に残るものを作れるかもしれないと考えると、この仕事は楽しいなと思います。

――ご自身にも、心を動かされたようなご経験が?
古屋:『Mommy/マミー』というグザヴィエ・ドラン監督の作品があるんですが、僕は彼が大好きで、たしか年齢が1つ上なんですよね。彼は自分で作品を撮って、役者として出演もしている。映画一家に生まれているとはいえ、こういう表現の仕方、生き方もあるんだなと、すごく刺激を受けました。
――古屋さん自身、映画監督にご興味は?
古屋:正直、やりたいですね。でも商業的というよりは、そこでは自分が伝えたいものを表現したい。写真集や写真展の延長線上のような映像作品は、実は僕の中ですでに見えているんです。アミューズが、それを許してくれるかどうかわかりませんが(笑)。
――(笑)。古屋さんとお話ししていると、ポジティブで前向きなオーラをすごく感じます。
古屋:たしかに、表面上はハッピーかもしれないです(笑)。争いごとや、誰かが嫌な顔をしているのを見るのが好きじゃないんですよ。なるべく物事が円滑に進んでほしいし、楽しいほうがいいと思うタイプなので。ただその分、家に帰ると“無”ですよね(笑)。1人の時間は絶対に必要な人間なので、その時にリセットしている感覚があります。
――そこで自分を整えると。
古屋:そうですね、チューニングして。人と一緒にいるときには、相手の流れに合わせることが苦じゃないんです。ハッピーな人がいたら一緒にハッピーになれるし、苦しんでいる人がいたら一緒に苦しむこともできる。その分、相手から“もらいやすいタイプ”ではあるかもしれないですね。

――役を演じているときには、ご自身がキャラクターに寄ってしまうことも?
古屋:それはあると思います。誰かを好きになっちゃうことはないかな……いやあるか、いやないか(笑)。でも、メンタル的に上振れ、下振れはしやすいと思います。きっと、そういう性格で自分が疲れを感じやすいからこそ、「みんなに気持ちよく帰ってほしい」と思ってしまうんですよね。八方美人というわけではなくて、ちょっと考え方がハワイっぽいのかもしれないです。寡黙で“役者然”としている方もカッコいいなと思いますけど、僕はアロハな感じでやらせてもらっています(笑)。
――お父様がハワイ出身の古屋さんならでは、ですね(笑)。これだけ多くの活動をされているとそのバランスも難しそうですが、そのあたりはいかがですか?
古屋:逆にいろいろとやっているから、バランスが取れているんだと思います。きっと、役者だけをやっていたら潰れると思いますね。とはいえカメラも、クライアントワークが多いとやめたくなっちゃうんですよ。息抜きとして、自由に写真を撮ったり、映像を撮ることが大事なんです。役者として3カ月間みっちり働いて、その後に少し時間があったら写真を撮ったり、映像を撮ったり。なんだかんだ、自分の機嫌の取り方がわかっているのかなと思います。


















