2025年上半期アニメどうだった? 20代オタクたちが独断と“偏愛”だらけでぶっちゃける

オリジナルアニメが魅せる可能性
舞風:ここまで話してきた作品を筆頭に、上半期は多くのアニメオリジナル作品が評価されていたように思います。
『もめんたりー・リリィ』は古くて新しいアニメだ 戦闘美少女とセカイ系の伝統と更新
戦闘美少女アニメとしての『もめんたりー・リリィ』 TVアニメ「もめんたりー・リリィ」ノンクレジットOP 1月からTOKYO…ホワイト:私は『もめんたりー・リリィ』(以下、『もめリリ』)が気に入っています。『もめリリ』はアニメーションというメディアにすごく自覚的だったのが面白かったなと。キャラクターの属性だったりストーリーそのものをかなり戯画化して描いている作品だったと思うのですが、単なるパロディが連続する作風に終始するのではなくきちんと内容が伴っていた点が良かったです。作品全体としてまとまりがあったことを評価したいですね。
舞風:本作は『デキる猫は今日も憂鬱』や『好きな子がめがねを忘れた』で緻密に背景を設計していることが話題になったGoHandsのオリジナル作品ということで、自分も注目していました。おっしゃる通り、キャラクターの特徴的な口調の反復にしっかりと意味が与えられたことが印象的な作品でしたね。
徳田:僕は『アポカリプスホテル』を挙げたいと思います。ちなみにこの座談会の前に予備調査としてそれぞれ冬・春のベスト作品をあらかじめ出していたのですが、春は『アポカリプスホテル』で満場一致という(笑)。
舞風:文句なしの春アニメベストでした! 自分は特に第11話が圧倒的だったなと思います。背景がよく映えるロングショットがすごく多いんですね。しかもそのうえで「これ広尾の商店街のパチンコ屋だな……」とわかったりする。荒廃した世界の中でも街の原型が残っていることが視聴者にわかるかたちで視覚的に表現されていて、背景美術のクオリティの高さを実感しました。
『アポカリプスホテル』は2025年春アニメの“隠れた名作”だ 人類なき“日常”はハートフル
「シャンプーハット」から始まる物語 2025年春はハイクオリティなオリジナルアニメが揃ったシーズンとなった。『機動戦士Gun…徳田:第11話に関しては、ロボットが食物連鎖的に関わり合っていることを描いているところが素晴らしかったですね。ヤチヨが活動を停止したロボットからチップを回収して自身のボディに搭載するシーンがありましたが、これは擬似的なロボットなりの食物連鎖で、地球に人類がいなくても生態系は勝手に続くし新しい連鎖も生まれる。そういうことが随所に散りばめられていたことが面白かったです。結局第12話で人類は帰ってくるけれど、最終的に宇宙へ戻っていってしまう。『風の谷のナウシカ』みたいなエコロジー描写で主張が強くなりすぎるのを避けたのかなと思うのですが、これによって地球のホストがむしろロボットたちになって、人類は観光客にすぎないというふうに人類とロボットのパワーバランスが逆転しています。それをギャグとしてここまで描き切ったことは本当にすごいことだと思います。
舞風:第11話の最後で休みがどうだったかと聞かれて「生きている感じがしました」と言いますけれど、そこにつながっていきますよね。「人類」というかつて特権的だった存在が相対化されていく。地球に戻ってきた人類がヌデルのハンバーグを食べるのもすごく効いています。それまで異質なものだと感じてきた「宇宙人」が、人類と似たような存在であったことが明らかになるわけです。人類は人類で地球の環境に合わない身体になっていて、再び地球で繫栄する未来はひとまず持ち越される……これは終末モノとしてすごくいい着地点になっていると思います。
ホワイト:第11話は終始静かなことも特徴的でした。『のんのんびより』第1話冒頭のシーンを思い出すような抒情性があって、言葉を発さずにこれほど充実した描写ができるアニメーションの素晴らしさを改めて示したと思います。あと、第7話の最後でヤチヨさんが宇宙から帰ってこられなくなったところも個人的には興味深いです。第8話が始まると、普通に銀河楼が経営されたまま数百年経っている。特にヤチヨさんを助けに行こうという話が始まるわけでもない、という。スケール価値観がかなり人間離れしていて、それが同時に人間の想像力に束縛されない描き方になっていますね。ポストヒューマンのSFとしても傑作だったといえます。星雲賞獲ってほしい。
徳田:各話の間でも数十年、数百年と経っている場合があってその人間離れした時間の扱い方は僕も面白いと思っていました。『葬送のフリーレン』ではフリーレンの長寿ぶりが異質なものとして描かれますが、『アポカリプスホテル』は逆にヤチヨたちの時間感覚こそが「普通の日常」として扱われていたのがいいですね。
舞風:そうですね。時間軸に対する感覚の遠さに対して、人類の痕跡やいい意味でくだらないコメディといった人間くささが挿入されているところに味があるなと感じました。人類は地球からいなくなるけれど、そうした世界は案外悪いものでもないし、必ずしも最も悲しい結末ではない。個人的には第6話のヤチヨがラブコメに至らなかった回もすごく好きで、ここでもやはり時間軸的にはるか遠い話だったのに、とても親しみのある身近なストーリーでした。
ホワイト:お酒を造ることだったり、結婚式や葬式といった生命をめぐるイベントはまさにそれを示していますね。人間とは生きてるスケールが全然違うのに、やってることは人間の文化の延長でもある。それはポストヒューマン的な崩壊や終末論を単に肯定するのではなく、人間が築き上げてきたものも尊いけれど、種族が変わればその担い方も変わってゆくということを的確に表現していたなと思います。
徳田:こういう題材ではヒューマニズムを批判すればよいという方向に行きがちですが、『アポカリプスホテル』では人類の文化に対して「痕跡があったからたまたま利用している」くらいの距離感で、過剰に人類の痕跡を排除しようとしているわけではないのがよかったと思います。過剰な排除は、逆説的にそれが過大評価されていることにもなるので。人類らしさを踏襲しているけれども、明らかに異質な生態系が出来上がってるさじ加減が絶妙でした。
舞風:『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』や『少女終末旅行』も衰退した世界の中でかつての文化を読み替えていくというようなことをやっているのですが、それに連なる作品として考えることができそうです。そのうえで『アポカリプスホテル』は、そこにSF的な想像力をうまく働かせることで「人類」の存在を過剰に排除も評価もせず、より大きなスケールの中で終末世界での日々を描き切った。それによってこの系譜の作品の魅力をもう一段階引き上げたなというふうに感じます。
まとめ
舞風:最後にそれぞれの総括を伺って終わりたいと思います。自分はやはり、アニメの受容のしかたが大きく変わりつつあるように感じました。SNSでのコミュニケーションを中心に、広義のメディアミックスが視聴者にリーチする上でより重要となりつつある。その傾向が上半期を総覧して改めて見えてきたことが興味深かったです。
ホワイト:私は上半期を通して、話題になりがちな「作画」に限らずさまざまな側面でクオリティの高いアニメがたくさん出てきたなと率直に感じます。物語だけに頼らない、撮影・演出などの部分で映像として観て面白い作品も増えていて、そこがとても楽しかったです。
徳田:僕は下半期の間に『Ave Mujica』最終回ロスから抜け出そうと思います。本日はありがとうございました!


























