米津玄師楽曲はなぜ“オタク”にも愛されるのか? 圧倒的“作品理解度”で生まれる名主題歌

NHK連続テレビ小説『虎に翼』やTBS系日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』などのドラマ主題歌、映画『ラストマイル』主題歌など、数多くの映像作品の主題歌(テーマソング)を手がけ、作品との親和性の高さから「米津玄師が主題歌を手がける作品はヒット確実」と評されるほど。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』主題歌「Plazma」も、放送が終了した現在も考察の手が止まらない。『僕のヒーローアカデミア』や『メダリスト』など、米津玄師が手がけたアニメ主題歌を紐解くことで、アニソン作家としての彼の存在感に迫っていく。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』「Plazma」
もしもガンダムのパイロットがシャアだったら、もしも一年戦争で勝ったのがジオン公国だったら……。ガンダムファンが一度は妄想し夢に見た光景を、「並行世界」というかたちで見事に描いた『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』。オープニング主題歌を担当した米津玄師は、「Plazma」の歌詞の冒頭から何度も繰り返される〈もしも〉という実にシンプルなひと言で、『GQuuuuuuX』の世界観を端的に言い表した。〈改札〉や〈裏門〉など、主人公・マチュが学生であることとリンクするワードが散りばめられているほか、〈もしもあの裏門を越えて 外へ抜け出していなければ〉というフレーズは、カバスの館で出会ったララァ・スンとのエピソードとも重ねることができるなど、歌詞には幾重にも張られた“もしも”が出てきて想像が搔き立てられる。また『ガンダム』シリーズでは、ニュータイプが何かを直感したとき効果音とともに稲妻が走るような映像表現がなされるが、〈目の前をぶち抜くプラズマ〉というフレーズはその瞬間がイメージされて言い得て妙だ。
『メダリスト』「BOW AND ARROW」
『メダリスト』のオープニング主題歌「BOW AND ARROW」では、フィギュアスケートでオリンピック金メダルを目指す少女・結束いのりと、選手時代に挫折を経験したコーチ・明浦路司の関係性を「弓と矢」に例えた。〈気づけば靴は汚れ〉……司のこれまでを歌った冒頭、〈聞こえたその鳴き声〉……いのりとの出会い、そしてサビでは〈きっと君の眩しさに誰もが気づくだろう〉と、司の思いがあふれる。演技が始まる前のワクワクが表現されたドラマチックなイントロから一転、けたたましくリズムが鳴り響くアップテンポのサウンドからは、勢いよくリンクを滑走する様子が目に浮かぶ。〈見違えていく君の指から今 手を放す〉というフレーズからは、いのりの凄まじい成長速度が感じられるほか、アイスダンスのペアが、見つめ合いながら取り合った手を放す瞬間の刹那の情景が浮かぶようだ。
『僕のヒーローアカデミア』「ピースサイン」
『僕のヒーローアカデミア』第2期では、オープニングテーマ「ピースサイン」を手がけた。『ヒロアカ』第2期は、「雄英体育祭」「職場体験」「期末テスト」と着実にプロヒーローへの階段を上る様子が描かれた一方で、ステイン、トガヒミコ、荼毘など、その後もデクたちを苦しめるヴィランたちが少しずつ姿を現し、ヒーローや正義の存在意義を揺るがし始める。
このときのデクたちは、その後に待ち受ける死闘をまだ知る由もないが、「ピースサイン」はそんなデクたちに向かって、今はまだ知らなくていいから今の一瞬一瞬を楽しんでほしいと、俯瞰から青春を謳歌することを願っているように聴こえる。フレーズごとに爆豪勝己や麗日お茶子など、さまざまなキャラクターの顔が浮かぶのは、原作を読み込んだゆえの賜物だろう。楽器の音色の多彩さや幾重にも重なるコーラスでキャラクターの人数感が表現され、疾走感にあふれるビートとメランコリックなギターリフなどは、じつに“青春している”と感じる。放送当時は苦悩と喜びに満ちた青春の1ページを切り取った楽曲という印象だったが、10月に『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』の放送を控えた今聴くと、昔のアルバムから笑顔でピースサインをする1枚の写真を見つけたときのような感覚になる。




















