『べらぼう』横浜流星×風間俊介の笑顔と涙が最高の回に 蔦重の“遊び”は現代こそ響く

そうして、迎えた蔦重とていの祝言の日。そこにやって来た鶴屋が差し出したのは耕書堂の暖簾だった。

「江戸一の利き者、いや江戸一のお祭り男は、一層この町を盛り上げてくれよう」
それは日本橋に受け入れられた何よりの証だった。思わず目頭が熱くなる蔦重。それに輪をかけて、鬼の目ならぬ、忘八アベンジャーズの目にも涙。これまで散々鶴屋とやり合ってきた駿河屋(高橋克実)も深々と頭を下げ、まさに「雨降って地固まる」ならぬ「灰降って地固まる」。この祝言は、吉原と日本橋の縁組みとも言えるめでたいものだった。そんな感極まった表情で暖簾を見せる蔦重を、淡々とした表情で見つめるていのバランスもまた面白い。この夫婦がどんな本屋を育てていくのか楽しみだ。

一方、「商いのためだけの夫婦」にも似た「責としての身請け」を約束していた意知と誰袖(福原遥)の関係にも変化が。意知は誰袖と初めて会った夜、「花雲助」として狂歌を詠んでいなかったことを踏まえて、誰袖に狂歌をしたためた扇を渡す。そこに書かれていたのは、西行が晩年詠んだとされる歌を引用した狂歌だった。西行は願わくば春、桜の花のもとで死にたいと詠んだが、雲助は誰袖のもとで死にたい。
「袖の下」といえば賄賂政治と揶揄された田沼家を象徴する言葉で、狂歌らしい表現を取り入れるところにも意知の秘めたる茶目っ気を感じた。意知が誰袖と男女の仲になることを避けていたのは、愛した女性を間者にすることへの自責の念から。蝦夷開発の一件が終わるまではと、気持ちを抑えておくつもりだったが、月が満ちるように止めることのできない2人の愛が膨らんでいく。「まずい、まずい」と言いながら盛り上がる2人の恋が、桜の花のように散ってしまう。そんな予感がして怖くなった。

「世もそう長くはないかもしれぬしな」と将軍・徳川家治(眞島秀和)が語ったように、田沼意次(渡辺謙)が築き上げた時代も終焉が近づいている。それは意知と誰袖の行く末はもちろん、笑いを楽しむ文化が花開いた世相を味方につけた蔦重の今後にも大きな影響を及ぼす。そして予告を観れば、2025年の話なのではないかと思うほど「米がない」と叫ぶ米騒動の話題も。つくづく今年、蔦重を描く大河ドラマが描かれるのは必然だったのではないかと思わされる。平和な世の中が続きながらも、どこか閉塞感が漂う時代に、つまらないことこそ笑いに変えて生きる蔦重を見習いたくなる。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK






















