『鬼滅の刃』遊郭編はなぜ悲しく儚いのか 妓夫太郎&堕姫兄妹が際立たせた“鬼側”のドラマ

『鬼滅の刃』は主人公・炭治郎が鬼になってしまった妹・禰󠄀豆子を人に戻すため、鬼殺隊として成長していく姿を描いた物語である。『週刊少年ジャンプ』(集英社)の“王道”たる「友情・努力・勝利」がふんだんに溢れるアツいバトルマンガであり、現代のマンガとしては1、2を争う知名度を誇る人気作といえるだろう。そして、そんな人気の背景には、たんなるアツいバトルマンガにとどまらない“ある要素”が関係している。『鬼滅の刃』の大きな特徴であり、魅力となっている、その要素とは「鬼側のドラマ」にある。
『鬼滅の刃 無限城編』なぜ予告編公開を焦らすのか 王道プロモーションを外した戦略的狙い
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』が7月18日に公開を控えるなか、6月14日にフジテレビが「劇場版『無限城編』公開記念! 『鬼滅の刃…そもそも『鬼滅の刃』における鬼とは、元々は人間であること、主食が人間であること、太陽の光を浴びると消滅してしまうなどの共通項はありながらも、禰󠄀豆子や、珠代、愈史郎など例外となる鬼も多数存在しており、鬼の明確なメカニズム自体は未だに謎を残している部分も多い。特に「人の記憶」の残り方は今のところ鬼によって様々だというほかない。
これまでに炭治郎が敵対した鬼の中で最初に「人の記憶」を垣間見せた鬼は、「立志編」の第4話「最終選別」で現れた鬼・手鬼である。手鬼は、消滅の間際に自身の兄との記憶に揺れ、炭治郎の慈しみによって兄と共にこの世を去るという姿が描かれた。また、「立志編」の第11話「堤の屋敷」では、物書きとしての過去を持つ鬼・響凱が、第21話「隊律違反」では、人としての最後の記憶を埋め合わせるように鬼たちと家族を作る鬼・累が登場し、彼が人であった頃の過去が描かれる。
このように『鬼滅の刃』では、鬼たちの「人の記憶」や人の頃の後悔、鬼になってしまった、もしくは、ならざるを得なかった経緯などがしっかりと描写される。実際に過去の記憶などが全く描かれていない鬼も存在してはいるが、こうした鬼の回想が全編を通してところどころに配置されていることで『鬼滅の刃』は単なる勧善懲悪にとどまらない深い余韻を伴ってストーリーが進行していく。
『鬼滅の刃』“音柱”宇髄天元が妻たちを大切にする理由 “忍”としての壮絶な過去を解説
これまで放送された『鬼滅の刃』のエピソードを再編集して公開する『鬼滅シアター -「鬼滅の刃」特別編集版 劇場上映-』が、全国劇場…そんな中でも「鬼側のドラマ」がとりわけ大きな輝きと存在感を放っている一編が「遊郭編」である。上弦の陸・妓夫太郎と堕姫の兄妹が敵として立ちはだかり、ラストには彼らの壮絶な過去をもって締め括られる「遊郭編」では、生まれた環境というテーマがさまざまな形で描かれている。例えば宇髄天元の場合には、忍の家系に生まれ厳しい訓練と数々の姉弟の死を経て、父への反骨心を抱いたまま成長した過去と、彼が鬼殺隊の「お館様」こと産屋敷と出会ったことで幼少期からの価値観を克服し、3人の妻と新たな家族を作っている現在が描写されている。






















