『鬼滅の刃 無限城編』なぜ予告編公開を焦らすのか 王道プロモーションを外した戦略的狙い

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』が7月18日に公開を控えるなか、6月14日にフジテレビが「劇場版『無限城編』公開記念! 『鬼滅の刃』全七夜特別放送」と題して、アニメ『鬼滅の刃』の「無限列車編」から「柱稽古編」までを一挙放送することを発表した。さらに、第一夜となる6月28日には新作映画の本予告編が世界初公開されるという。
この一報にファンからは歓喜の声が上がっているが、これまで本予告が一切公開されなかったことに関しては、“異例の事態”だとしてネット上を騒がせていた。
確かに、2020年に公開され、国内の歴代最高興収404.3億円を叩き出した『無限列車編』では、公開の2カ月以上前から本予告がリリースされ、それがSNSなどで拡散されるという「王道プロモーション」が奏功し、社会現象を巻き起こすことに繋がった。
3月に公開された公式のプロモーションリールでは、『無限城編』は上映館数がシリーズ史上最多となる443館だと発表され、『無限列車編』の423館をさらに上回る規模であることが明らかに。さらに、海外展開もシリーズ過去最大規模となる見通しで、これまでのワールドツアーをはるかに超える150以上の国と地域での公開が決定済みとのこと。にもかかわらず、『無限城編』に関しては、唯一確認できる映像は一部の劇場でのみ流れている限定PVのみという状況には、一抹の不安を感じるファンも少なくなかった。
では、本作ではなぜ“沈黙”が貫かれていたのか。その背景には、「王道プロモーション」をあえて外すという戦略的な意図が見え隠れする。
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まず注目すべきは、今回の劇場限定PVという形式そのものだ。映像がネット上で広まらないことにより、劇場でしか得られない“希少体験”としての価値が高まり、それを観た一部の観客がSNS上で熱量の高い感想を投稿することで、観られなかった層との間に温度差が生まれる。この「見た人だけが語れる」という構造を、新たな熱狂のトリガーにしたいという思惑があったと推察できる。情報過多の現代においては、意図的に情報を絞り込むことで話題性を生み出す「逆張り型プロモーション」が一定の効果を持つとされ、『THE FIRST SLAM DUNK』や『君たちはどう生きるか』といった近年の大ヒット作品がその代表例だ。