『閃光のハサウェイ』新作、原作と異なる展開を考察 ブライト&ギギの活躍に期待?
『キルケーの魔女』と原作小説の展開の違いは?
『キルケーの魔女』が富野由悠季監督による全3巻で書かれた原作小説の中巻どおりに進むなら、モビルスーツが人間を蹂躙する様子が登場してさらなる恐怖心を誘うだろう。同時に、移民という昨今の社会で急激に取り沙汰されるようになったテーマについても、大いに議論を喚起させそうだ。ハサウェイがマフティーに参加しリーダーに祭り上げられるまでになったのは、地球連邦における移民の取り締まりが苛烈を極めていることに反発を覚えたからだ。その感情は、『閃光のハサウェイ』シリーズ全体を貫いて物語を駆動させる。
『ジークアクス』でも軍警の避難民たちへの横暴な態度が、アマテ・ユズリハことマチュの感情を刺激し、モビルスーツの搭乗へと向かわせそして物語が始まったという意味で、移民問題はシリーズの中でも大きな要素のひとつになっている。もっとも『ジークアクス』のその後の展開は、UCの歴史が「正史」とは異なる方向に進んでいたら物語はどうなったのかを見せて往年のファンをワクワクさせる方向へと進んでいった。それもまた、多元宇宙の可能性に挑むSFとして面白かったが、実社会の切実な問題はどちらかといえば後景に下がってしまった。
『閃光のハサウェイ』の場合は、ハサウェイやテロリストが活動する目的が移民に関する問題そのもので、最後までテーマとして貫かれ続ける。地球連邦はどうして移民を激しく取り締まろうとするのか。そこには非ばかりで理はないのか。たとえ非ばかりであっても暴力で対抗することは是なのか。「連邦政府の官僚と議員たちの社会が、世襲制の様相をていしている現在、その政策のもとに展開される現実は、差別政策であると談ずることができた」(『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ(中)』より)という、これも昨今の政治情勢に重なる指摘も含めて、いろいろと議論を呼ぶ物語になっていくことは確実だ。
そうしたテーマとは別に、ギギという少女を中心に、ハサウェイと連邦軍に所属するケネス・スレッグ大佐が向かい合うような関係がどうなっていくかも大いに関心を誘うところだ。マフティーに狙われたシャトルに乗り合わせていた3人は、ダバオに降りてからも親交を持つが、すぐにハサウェイはダバオを抜け出してマフティーの組織と合流する。ギギは、マフティー掃討を担当することになって新たに「キルケー部隊」を結成したケネス大佐の側で、その不思議な能力を発揮する。第2作のサブタイトルが『キルケーの魔女』となったのは、ギギの存在がフィーチャーされるものになっているからかもしれない。
若くしてマフティーを率いて戦うハサウェイに惹かれながら、年配者のケネス大佐にも安心感を抱くギギの存在は、シャアとアムロの間で揺れ動いた『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のクェス・パラヤの再来とも言えそうで、社会における正しさなり人間にとっての魅力を占うリトマス試験紙のような役割を果たす。小悪魔的とも言えるその言動が、アニメではpablo uchidaの原案と恩田尚之のデザインによって磨かれた表情から繰り出され、ハサウェイとケネス大佐に加えて観客も鋭く射貫く。ここもまた『キルケーの魔女』の見どころだ。
そして、原作のとおりに進めば、懐かしいあの人の登場も話題となりそうだ。ブライト・ノア。最初のTVアニメ作品から登場し続けてきた歴戦の男が、息子との対峙というシビアな状況に置かれることになる。2021年に開かれた『閃光のハサウェイ』のイベントで、ブライトを演じる声優の成田剣が、第2作からの登場があると言って会場を沸かせた(※)。『機動戦士ガンダムUC』で鈴置洋孝からブライト役を引き継いだ成田にとって、『キルケーの魔女』への出演は待望だっただろう。期待したい。
このイベントで、成田は当時『サン オブ ブライト』(仮題)として発表された第2作が、原作とはもっとも違う展開になると話した。ギギとハサウェイとケネス大佐の関係に何か変化が出るのか。社会性が強いテーマにも変更が見られるのか。ここも注目したいポイントだ。いずれにしてもどこまでもリアルな世界で、シリアスな物語を見せてくれることだけは確かだろう。UCの可能性を拡張した『ジークアクス』を楽しんだ頭を切り替え、UCの細部を見つめ直す『キルケーの魔女』で社会と宇宙と「ガンダム」という物語と対峙しよう。
参考
※https://www.gundam-hathaway.net/news.php?id=19061
■公開情報
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』
今冬全国公開
キャスト:小野賢章(ハサウェイ・ノア役)、上田麗奈(ギギ・アンダルシア役)、諏訪部順一(ケネス・スレッグ役)、斉藤壮馬(レーン・エイム役)
原作:富野由悠季、矢立肇
監督:村瀬修功
脚本:むとうやすゆき
キャラクターデザイン:pablo uchida、恩田尚之、工原しげき
キャラクターデザイン原案:美樹本晴彦
メカニカルデザイン:カトキハジメ、山根公利、中谷誠一、玄馬宣彦
メカニカルデザイン原案:森木靖泰、藤田一己
美術設定:岡田有章
美術監督:大久保錦一
色彩設計:すずきたかこ、久保木裕一
ディスプレイデザイン:佐山善則
CGディレクター:増尾隆幸
撮影監督:大山佳久
特技監督:上遠野学
編集:今井大介
音響演出:笠松広司
録音演出:木村絵理子
音楽:澤野弘之
企画・制作:サンライズ
製作:バンダイナムコフィルムワークス
配給:バンダイナムコフィルムワークス/松竹
©創通・サンライズ
公式ティザーサイト:https://www.gundam.info/feature/hathaway/
公式X(旧Twitter):https://x.com/gundam_hathaway





















