長岡花火をなぜ映画館で上映? ライブビューイングの演出担当が語る“迫力”と“祈り”

長岡花火をなぜ映画館で上映?

長岡花火に込められた平和への想い

坂上明和

――長岡花火大会は、太平洋戦争の被害に遭われた方の慰霊という側面を持っています。今年、戦後80年の節目となりますが、特別な思いはありますか?

坂上:長岡は、空襲で1500人近くが犠牲となった歴史を背負っています。私の父も戦争に行っていますし、2年前に亡くなられた伝説の花火師・嘉瀬誠次(かせ・せいじ)さんもシベリアで過酷な体験をされています。8月1日が空襲の日で、長岡花火大会はその翌日、2日と3日に曜日に関係なく開催されることが決まっています。終戦2年後に花火大会は再開され、慰霊と復興の祈りとして花火を打ち上げ続けてきました。その思いは毎年変わりませんが、80年というのは一つの節目として特別な気持ちはあります。

――空襲の被害に遭われた方の中には、戦争の辛い体験を思い出したくないという方もいらっしゃったのではと思うのですが、それでも長岡では毎年慰霊をテーマに花火大会を続けてこられたのですよね。それは簡単な決断ではなかったのではないかと思います。

坂上:当時を知る方は少なくなってきていますが、おっしゃる通り、花火の音で空襲を思い出すというご年配の方もいらっしゃいます。でも長岡花火は、何度も困難を乗り越えて、祈りや願いを込めて上げ続けられてきたことで多くの人に受け入れられてきたのだと思います。空襲で焼け野原になり、中越地震で被災し、その都度、長岡の人々は立ち上がってきたんです。「長岡魂」と地元の方は言いますが、困難に負けない気持ちを花火に込めています。花火にはそういう勇気を与えてくれる力があると思うんです。

――長岡では花火大会が、戦争体験を伝えることにも貢献しているのでしょうか。

坂上:長岡は平和教育が盛んな土地です。空襲の体験を未来に語り継いでいこうと熱心にやっていまして、戦後の平和教育の象徴として花火大会があると思っています。皆さん、花火大会にそういう思いを重ねていると思います。そういうものを背負っているというのが、他の地域の花火大会とは異なる部分です。今でもウクライナやガザなど世界では戦火が絶えない状態だからこそ、長岡の平和への思いもライブビューイングで伝えたいと思っています。

被災を乗り越える祈りの象徴「フェニックス」

――昨年は中越地震から20年、今年は地震からの復興を象徴する花火「フェニックス」が打ち上げられるようになって20年目の節目でもあります。

坂上:昨年は、能登半島地震の復興支援という形で、フェニックスと能登の復興支援コラボレーションの花火が上がりました。2011年の東日本大震災の時も石巻で花火を上げたり、これまでも様々な被災地で花火を上げてきました。色々な地域で長岡の花火が復興の応援をしています。

――坂上監督も中越地震では被災されたそうですね。

坂上:はい。単身赴任で長岡支社におりまして、住んでいたマンションは半壊、会社で1週間寝泊りしていました。系列局から来た応援と一緒に、長岡支社をベースに各地の被害を取材していましたが余震がすごく多くて、大きな揺れが来るたびに階段を駆け下りて避難しながらの仕事でした。

坂上明和

――2004年の10月23日に地震があり、その翌年には花火大会をやっていたのはすごいですよね。

坂上:はい。復興祈願としてのフェニックスの花火がその年から始まりました。地元の若者たちがなんとか地元を勇気づけたいと特別な花火を上げようという話が持ち上がったんです。あの年はフェニックスは最後のプログラムで、平原綾香さんの「Jupiter」に乗せて約5分間、夜空が花火で覆われるようなすごい花火でした。あれは本当に感動しました。花火で泣いたのはあれが初めてです。自然災害は全国どこでも起きますし防げません。南海トラフ地震も絶対いつか起きるんです。長岡花火自体が防災に役立つわけではありませんが、フェニックスは被災の困難を乗り越えていこうという祈りの象徴です。そうした困難を長岡が乗り越えてきたことを知っていただくと、全国の皆さんを勇気づけられるかもしれないと思っています。うまく言葉にできないけど、「花火の力」って本当にすごいんです。

花火の力を気軽に映画館で楽しんでほしい

坂上明和

――「花火の力」はいい言葉ですね。

坂上:言葉にするのは難しいですが、山下清さんの言葉「みんなが爆弾なんかつくらないできれいな花火ばかりつくっていたらきっと戦争なんか起きなかったんだな」というのは、ある意味理想ですけど、どんな国の人でも花火の光には心を震わせて何かを感じると思うんです。花火大会に向かう時、みんなワクワクするじゃないですか。そこに何かのメッセージが込められていることが伝わるんだと思うんです。長岡はハワイと姉妹都市の提携を結んでいますので、真珠湾攻撃のあったホノルルでも花火を上げています。真珠湾攻撃を指揮した山本五十六は長岡出身なんです。彼は戦争に反対だったけど、自ら苦渋の決断をしたということをハワイの方にもご理解いただいて長岡と姉妹都市になったんですが、ホノルルの方も花火にたくさんの歓声をあげてくださいます。花火には言葉と国境を超えて何かを伝える力があるんです。

――そういう思いがこもった花火大会を若い方にも多く経験してほしいですね。

坂上:そうですね。映画館なら気軽に行けると思いますので、まずはシンプルにエンターテインメントとして見てもらいたい。拍手や歓声を上げても問題のない上映形式にしています。映画館は現地と違って涼しいですし、ぜひ映画館で長岡花火を楽しんでほしいです。

■公開情報
「2025 長岡まつり大花火大会ライブビューイング」
販売料金:一般3,000円、高校生以下1,500円(税込・全席指定)
販売サイト:チケットぴあ(https://w.pia.jp/t/nagaokamatsuri-relay/

【販売スケジュール】
プレリザーブ(抽選):7月21日(月・祝)23:59まで
一般販売:7月26日(土)~7月31日(木)23:59まで
※残席がある場合のみ、8月2日(土)より各劇場にて販売

【2025長岡まつり大花火大会ライブ中継 プレリザーブ受付劇場一覧】
https://nagaoka-hanabi-movie.jp/

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