『あんぱん』と『エール』が表現した戦争と分断 戦後80年の今だから描く“加担者”の主人公

NHK連続テレビ小説『あんぱん』の戦争描写が話題だ。日中戦争が勃発したのが第6週なので、すでに戦時下に突入して5週目。こんなにも時間をかけて、戦争を描くのは朝ドラとしては異例のことではないだろうか。

生前、反戦を訴え続けたやなせたかしの遺志を引き継ぎ、戦後80年が経って、戦争の記憶が風化しつつある今だからこそ、再び誤った道を歩まないためにも当時起きていたことを再考しようという製作陣の心意気が伝わってくる。
特筆すべきは、ヒロインであるのぶ(今田美桜)が戦争に加担した一人として描かれている点だ。歴代の朝ドラヒロインの多くが戦争を経験するが、そのほとんどが知らず知らずのうちに巻き込まれ、大切なものを奪われた被害者視点での描写だった。しかし、のぶは女子師範学校で担任の黒井(瀧内公美)から忠君愛国の精神を叩き込まれ、徐々に軍国主義に傾倒していく。

おそらく決定打となったのは、自身が発案者となった戦地に慰問袋を送る活動が評価されたことだろう。戦地から感謝状が届いたばかりか、活動の様子は新聞にも掲載され、のぶは「愛国の鑑」として注目を浴びるように。この出来事がさらに、のぶの戦争への歩みを加速させる。そこにあるのは、豪(細田佳央太)のように戦地で頑張っている兵士たちを応援したい、自分も国のために役立ち、世間から認められたいという“素朴”な感情だ。教師となったのぶは教え子にも愛国の心を教え込む。
同じく戦争加担者の視点で当時を描いたのが、やはり戦後75年の節目に放送されたNHK連続テレビ小説『エール』だ。主人公の裕一(窪田正孝)は作曲家で、「露営の歌」を手がけたことを皮切りに次々と戦時歌謡で成功を収める。そんな裕一にも召集令状が届くが、音楽での戦争に対する貢献が認められ、即時免除に。その負い目から「せめて自分の曲が戦う人の力になれば」との思いを強くする。のぶや裕一のように真面目で純粋な人ほど、戦争プロバガンダに乗せられてしまうという恐ろしさがあった。