『国宝』“少年期の喜久雄”黒川想矢の演技に圧倒される 『怪物』『【推しの子】』からの進化

黒川想矢の演技は紛れもなく“国宝級”

 是枝裕和監督の『怪物』(2023年)で主演のひとりに抜擢され、『【推しの子】-The Final Act-』(2024年)では物語のカギを握るカミキヒカル(二宮和也)の少年期を演じ、思春期にある者のまとう“危うさ”を体現してみせていたことが記憶に新しい黒川。“ピュアネス”という意味では喜久雄に通じるものがあるが、これは真逆の役どころであり、彼の演技の振り幅の大きさを示している。すでにこうしていくつかの作品で主要なポジションを担ってきた黒川だが、劇場にやってきた観客を物語の世界に誘う大役を務めているのが『国宝』だ。

『怪物』©2023「怪物」製作委員会

 物語がはじまってすぐ、私たちは喜久雄の持つ芸の才能に触れ、彼を襲う悲劇を目の当たりにする。ごく短い時間の中に、その後の彼の人生を決定づける、激動の瞬間が収められているわけだ。感情の起伏だって激しい。子どもらしく友人と戯れ、親を殺されたことに怒り、歌舞伎の世界に心を奪われ、やがて芸道を歩むことの苦しみと悦びでスクリーンを満たしていく。この激流ともいえる一連の流れの中で、私たちは幼き日の喜久雄の心の動きに触れ、彼の歩みについていくかたちで、『国宝』が描く世界の深部を目指して潜っていくことになる。黒川のパフォーマンスがあってこそ、これが実現するのだ。

 この過程にあるのは、喜久雄が少年から青年へと成長していく時の移ろい。まだ10代半ばの黒川だからこそ表現できたものであり、いまの黒川にしか表現できないものなのだろう。彼の演技について“国宝級”と称する声があるのも、納得である。ほかにないものなのだから。

■公開情報
『国宝』
全国公開中
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作、宮澤エマ、田中泯、渡辺謙
監督:李相日
脚本:奥寺佐渡子
原作:『国宝』吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
製作幹事:アニプレックス 、MYRIAGON STUDIO
制作プロダクション:クレデウス
配給:東宝
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
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