『魔物(마물)』女性たちはなぜDV男に沼るのか 一貫して描かれた愛の裏側にある“醜い感情”

あやめも夏音も暴力という形で凍也に執着されながら、自分の心の穴を凍也という存在で埋めている。そして、それをある程度自覚しながら、2人はその醜い感情には向き合おうとしていない。一番の見どころといっても過言ではない第5話の参鶏湯を囲んだ陽子(神野三鈴)、あやめ、夏音の場面。あやめはこの場面の前日に、暴力を振るわれることを自覚しながら、夜の会食に出向き、案の定凍也から首を絞められている。首を絞められた跡が、凍也との不倫の証になるなんてグロテスクすぎるが、あやめと夏音は暴力を凍也からの愛の強さとして振りかざし合っている。また、陽子は凍也を糾弾しながら、あやめと夏音が示しあう優越感に強く反論ができなかった。陽子もまた、夫・名田奥太郎(佐野史郎)が自分を見ないことに憤り、咄嗟に手をかけてしまっているから。どんな形であれ、愛されている実感が欲しいと感じてしまうのは、女に共通する暗い感情なのかもしれない。
『魔物(마물)』“DVは甘美な世界”という不都合な真実 日韓共同作品だから描けた“内側”
『魔物(마물)』(テレビ朝日系)は、「DV」が大きなテーマとなっている作品だ。第1話の冒頭から、麻生久美子演じる弁護士・華陣あや…愛の裏側にある暗い感情は、凍也の生い立ちからも伝わってくる。母が出て行った後、男手一つで育てられた凍也は、日常的に父から暴力を振るわれていた。一方で、「お前は俺以外絶対に信じるな」と呪いの言葉をかけられ、父が亡き後やってきた母には、香典を盗まれてしまう。凍也が、父からの暴力は信頼と愛の証だったのだと正当化し、感情表現の一つとして暴力を覚えてしまっても仕方がない。
当たり前のことだが、『魔物(마물)』で出てくる暴力はすべて許されない。DVでしかない。一方で凍也の生い立ち、夏音の生い立ち、あやめの歪みかけた自尊心が無ければ、暴力が介在しない世界があったのではないかと思わずにはいられない。人を愛するとき、明るく朗らかな感情のままではいられない。悲壮感や優越感、自尊心など、醜い感情が裏側に存在することもある。『魔物(마물)』はそんな人間の見苦しい感情を丁寧にえぐりとるように描いている。しかも、そこに色気を追加しながら魅せる映像にしてしまっているのが恐ろしい。本能に抗えないみっともない人間の姿は、蠱惑的なのだ。

自分の中にある暗い感情に支配され、凍也からの暴力を正当化してしまっているあやめや夏音もある意味、“魔物”なのかもしれない。第1話冒頭、あやめは殺人の罪で被告人席に座っていた。愛と暴力に支配され、堕ちていったあやめは、いったい誰を殺してしまったのか。愛の裏側にある人間の真の姿を表す本作がどんな結論を出すのか、しっかりと見届けたい。
テレビ朝日が、韓国のスタジオ・SLLとタッグを組んで送る日韓共同制作オリジナルドラマ。不倫、DV、セックスなど愛と欲望にまつわる過激なテーマを掲げたラブサスペンス。麻生久美子と塩野瑛久が初共演にして濃厚なシーンに臨む。
■放送情報
『魔物(마물)』
テレビ朝日系にて、毎週金曜23:15~24:15放送
出演:麻生久美子、塩野瑛久、北香那、神野三鈴、佐野史郎、大倉孝二、落合モトキ、宮本茉由、宮崎吐夢、うらじぬの、若林時英
原案:シン・ウニョン
脚本:関えり香
監督:チン・ヒョク、瀧悠輔、二宮崇
音楽:jizue
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)、パク・ジュンソ(SLL)
ゼネラルプロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)、チェ・へウォン(SLL)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、イム・チョヒ(SLL)、河野美里(ホリプロ)
制作著作:テレビ朝日・SLL
制作協力:ホリプロ
©テレビ朝日・SLL
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/mamono/
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