『あんぱん』北村匠海×中沢元紀、圧巻の2人芝居 「愛する人のために生きたい」痛切な願い

『あんぱん』北村匠海×中沢元紀、圧巻の芝居

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』は第11週に突入。戦争の影が登場人物たちの人生を揺るがすなか、第54話では、帰郷した千尋(中沢元紀)と嵩(北村匠海)の再会、そして別れが描かれた。1話すべてが一室で交わされる兄弟2人きりのやりとりで構成され、言葉と沈黙が行き交う静かな空間のなかで、戦火のただなかにあっても自らの進む道を見つめ直そうとする姿が、静かに、切実に浮かび上がっていく。

 京都帝国大学に進学していたはずの千尋が、突然、海軍士官として嵩の前に現れた。驚く嵩に対し、千尋は、自ら進んで志願したわけではなく、周囲の空気に流されるようにして海軍の道を選んだと打ち明ける。その口調は淡々としていたが、言葉の端々からは、答えの出せないまま時代に押し流された迷いと戸惑いがにじんでいた。駆逐艦に乗り、爆雷を投下していた過酷な任務を、まるで日常の1コマのように語る千尋。その姿に、嵩は思わず声を上げる。「お前は、弱い者の声を聞きたくて法科に行ったんじゃなかったのか」と。

 だが、千尋ははっきりと「自分でも分からなかった」と返す。どれが正解なのか分からないまま、気づけば時代の渦に巻き込まれていた。戦争が、若者の選択肢さえも奪っていく様が、淡々とした口調の奥に滲み出ていた。

 千尋は「5日後に南方に向かう」と静かに告げる。その表情からは、もはや迷いのようなものは見えなかった。「この国の人々や家族を守るためなら、命だって惜しくない」と語るその口ぶりには、若さを通り越した決意がにじんでいた。すでに何かを乗り越えた者にしか出せない、落ち着いた声色だった。別れの気配が色濃く漂う中で、千尋は嵩に一冊の日誌を差し出す。父・清(二宮和也)の遺品の中から見つけたものだという。それを「お守りとして、持っていてほしい」と、思いを込めて手渡そうとする千尋。だが嵩は、ためらいながらも「それはお前が持っているべきものだ」と言葉を返す。受け取ることを拒むその声には、千尋を手放したくないという祈りにも似た願いが滲んでいた。

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