『あんぱん』が鮮烈に描く軍生活 冷酷に見えた“八木”妻夫木聡の印象に大きな変化が

だが、嵩の“戦友”となった八木は他の古兵たちと少し違っていた。“戦友”とは新兵の世話を焼く古兵のことで、バディのようなもの。言葉に厳しさはあるが、八木だけは決して嵩を殴ろうとしない。むしろ、嵩が家から持参した井伏鱒二の詩集が馬場に見つかったときは代わりに軍人勅諭を次の朝までに覚えるよう命じたり、配膳したカレーライスの芋の数が違うと殴られたときは「飯の最中は埃が舞うからやめろ」と注意したり、さりげなくバディとして嵩を守っているような節さえ感じさせる。

そんな八木から「お前は戦地までもたないかもしれないな」と告げられた嵩。終わりの見えない過酷な軍生活に絶望し、便所や裏庭で首を吊った新兵を八木はこれまで何人も見てきたという。みんなが寝静まった後、窓際で一人外を眺めていた彼は、そうして旅立った新兵たちに思いを馳せていたのだろうか。
もしかしたら八木はこれ以上犠牲者が出ないように立ち回っているのかもしれない。そう考えると、最初に嵩に放った「戦場では気の緩んでおるやつが一番に死ぬ。気を引き締めろ!」という言葉も受け取り方が変わってくる。神野さえも逆らえない理由も含め、まだまだ謎に満ちた存在だ。

今週のサブタイトル「軍隊は大きらい、だけど」に続く言葉は果たして何なのか。戦争は人間を変えてしまうということを、長い時間をかけてじっくりと描こうとしている本作。嵩が小倉連隊で再会を果たした健太郎(高橋文哉)からも以前のような明るさがすっかり失われていた。戦争を憎む嵩も軍生活の中で変わってしまうのだろうか。朝から苦しい展開が続くが、戦後80年の今、二度と誤った正義に取り込まれないためにも私たちは嵩が辿る顛末を見届ける必要がある。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















