『あんぱん』視聴者必見! 『遅咲きのヒマワリ』『竜そば』など“高知”が舞台の名作5選

“高知”を舞台にした名作5選

『竜とそばかすの姫』

 2021年公開のアニメ映画『竜とそばかすの姫』は、高知県の仁淀川エリアをモデルにした作品だ。物語は、現実世界では声が出せない女子高生・すずが、仮想世界「U」で歌姫“ベル”として注目される姿を描く。仁淀川の美しさが、本作においては極めて重要な意味を持っていた。すずが仮想世界で“声”を得ていく過程には、学校生活や家族関係、トラウマなど、彼女を取り巻く複雑な現実が丁寧に織り込まれている。現実世界で言葉を飲み込み続ける彼女にとって、仁淀川の澄んだ水面や、静かな山あいの風景は、心を映す鏡のように機能していた。

 劇中で描かれる仁淀川は、ただの背景ではない。そこにある光や風、音、湿度が、すずの内面と呼応し、観る者に彼女の揺らぎや孤独を伝える役割を果たしている。ベルとしての活動が過熱していく中で、彼女が立ち返るのは、華やかな仮想空間ではなく、仁淀川のほとりに広がる静けさだった。高知という土地の風景が、すずの“声”の源として立ち現れるこの作品は、映像美と心理描写を高度に融合させた一本であり、土地と物語が共鳴しあう好例と言えるだろう。

 こうして挙げてみると、高知を舞台とした映像作品は、いずれも単なる背景ではなく、ストーリーを内側から支える構造になっている。東京や大阪といった都市部にはない“余白”があり、それが人物の変化や対話を成立させているのだ。

 視聴者の多くが「都会での生きづらさ」や「人間関係の希薄さ」に日々疲れている現代。だからこそ、高知の風景や人の距離感、方言が物語に癒しや再生のような感覚をもたらしてくれる。それは単なるノスタルジーではなく、現代社会の課題に対する、静かな処方箋のようでもある。

 今、私たちが高知の映像作品に惹かれるのは、そこで語られる“再生”や“出会い直し”が、どこかで自分自身の物語と重なるからかもしれない。高知の風景は、これからもきっと、語るべき何かを宿し続けるだろう。

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