少年少女は“地獄”で何を見つけるのか 『ドラゴン・ハート』は夏休み“王道”の冒険譚に

地獄そのものを旧態依然としたものにしなかった理由も同様で、寺院に詣でて僧侶から地獄草紙なり地獄絵図を見せられ講話を受ける機会など皆無の現代人に、より伝わりやすいイメージの“地獄”を見せようとしたものと言えそうだ。その先に登場するあるキャラクターについてさらに驚きのビジョンが繰り出されることになるが、詳細は映画を観てのお楽しみとしておこう。

少しだけ触れるなら、山下敦弘監督の実写での撮影を久野遥子監督がロトスコープという手法でアニメにした映画『化け猫あんずちゃん』に登場するものや、江口夏美の漫画でありそれを原作としたTVアニメ『鬼灯の冷徹』に登場するものからさらにぶっ飛んだ設定になっている。そうなった背景に、人間の半分以上が地獄に行くことになるという前提があり、だからこそ倦み疲れてしまう心情があって、それで良いのかと人間が問いかけられているのだと理解するのが良さそうだ。
古典的なビジョンを現代に置き換えつつ、ちょっぴりおかしさも感じさせつつ人間の愚かさと社会のおかしさについて描いた映画は、竜介と知美を地獄とは正反対の場所へと連れて行く。そこで繰り広げられるある種の光り輝く展開こそが、かつての寺院での講話ということになり、製作した幸福の科学という宗教団体の考え方が示される。人によってはそこに違和感を覚えるかもしれない。様々な信仰を持った人も観る一般向けの映画である以上、そうした反応があることも承知だろう。

ただ、少なくとも少年少女が一夏の冒険をしながら人間の犯す罪について触れ、成長していくという大筋についてはファンタジーであり児童文学といったものの王道と言える。その部分だけを感じ取りつつ、徳島県の風光明媚な景色を堪能するといった楽しみ方はできそうだ。前作の『宇宙の法 ―エローヒム編―』や前々作の『宇宙の法 ―黎明編―』、さらに前に『UFO学園の秘密』が、人類の存亡をかけて宇宙からの侵略者と戦うという壮大なテーマで観客を驚かせたことと比べると、分かりやすさであり親しみやすさでは幸福の科学によるアニメ映画で1番かもしれない。
出演している声優の豪華さも、一般の観客にとって興味の向かいどころだろう。竜介役の小林裕介、知美役の廣瀬千夏といったコンビの、中学生らしい初々しさを感じさせる声も良いが、ふたりを霊界探訪の旅へと送り出した老仙人こと天日鷲命を演じた千葉繁が、弾けずどっしりと構えた神様ぶりを聞かせてくれて、さすがは大ベテランといいった感心を誘う。修行を積んで覚醒を得たアデプトという名の導師を演じる武内駿輔は、まだ若い身ながら貫禄十分の声で役を引き立てる。

ヒンドゥー教の神様のビシュヌ神を演じる三木眞一郎は、わずかな出番でもその特徴的な声音を響かせ役とともにしっかりとした印象を残す。幸福の科学のアニメ映画はいつも声優の豪華さで注目を集めるが、今回も声優たちの使いどころをしっかりと押さえた作品となっていることは確かだ。
■公開情報
『ドラゴン・ハート-霊界探訪記-』©︎2025 IRH Press
全国公開中
製作総指揮・原作:大川隆法
声の出演:小林裕介、廣瀬千夏、千葉繁、小村哲生、深見梨加、浅野真澄、武内駿輔、三木眞一郎
監督:今掛勇
脚本:「ドラゴン・ハート-霊界探訪記-」シナリオプロジェクト
音楽:水澤有一
製作:幸福の科学出版
アニメーション制作:HS PICTURES STUDIO
配給:日活
配給協力:東京テアトル
©︎2025 IRH Press
公式サイト:https://hs-movies.jp/dragon-heart/






















