性風俗を美化せず悲劇にもしないリアルな質感 『うぉっしゅ』が描く“自己肯定”の物語

『うぉっしゅ』が描く“自己肯定”の物語

 祖母・紀江が認知症のために、会うたびに“初対面”を繰り返していく2人。“記憶に残らない関係”だからこそ育まれる、再発見。その過程が静かに、そしてやさしい手触りで描かれていく。

 加那は、「どうせ忘れる」相手だからこそ、心の奥に抱えていた仕事の悩みを自然と口にできることに気づき、徐々に祖母に心を開いていく。一方で、祖母がかつてサックス奏者だったことや、長く孤独の中にあったことがふとした会話のなかから浮かび上がっていく。

  そんななかで加那が思いつくのが、祖母と2人で“髪をピンクに染める”こと。ふとした衝動のようでいて、それは、言葉以上に2人の関係に確かな色を与える出来事でもあった。

 映画において、髪色を変える描写は、キャラクターの心情の変化や成長、あるいは物語の転換点を象徴するものとして描かれることが多い。本作でもその例に漏れず、ピンクの髪は2人にとっての“これまでと違う自分”の表れであり、ほんの短い時間でも確かに通い合った心の証のように見える。

 ヒロインの髪色が変わる映画で、個人的に印象に残っているのは『ゴーストワールド』だ。高校を卒業したばかりの主人公イーニド(ソーラ・バーチ)が髪を緑に染め、大人になりたくない自分との葛藤にもがく様子が描かれていた。『うぉっしゅ』でもまた、髪を染めるという行為が、2人にとってのささやかな決意や、今この瞬間だけのつながりをそっと可視化するように描かれているように感じた。

 余談になるが、この映画を観たあと、筆者も伸ばし続けていた前髪を切ってみることにした。大きな変化ではないけれど、ほんの少しだけ、新しい気持ちになれた気がする。

参照
※1.https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/87999
※2.https://realsound.jp/movie/2024/08/post-1739619.html

■公開情報
『うぉっしゅ』
公開中
出演:中尾有伽、研ナオコ、中川ゆかり、重松文、嶋佐和也(ニューヨーク)、髙木直子、赤間麻里子、磯西真喜
監督・脚本:岡﨑育之介
制作プロダクション:役式
配給:NAKACHIKA PICTURES
©︎役式
公式サイト:https://wash-movie.jp
公式X(旧Twitter):https://x.com/wash_film_
公式Instagram:https://www.instagram.com/wash_film_/

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