『君たちはどう生きるか』を読み解く“鑑賞のヒント” 初見時に知っておきたい3つのポイント

観る者に委ねる作品性
次に押さえておきたいのが、この作品が「難しい」と言われる理由だ。物語の主人公は、牧眞人(まきまひと)という少年。火事で母を亡くした彼は、父とともに東京を離れ、「青鷺屋敷」と呼ばれる郊外の屋敷へ移り住む。そこで出会うのが、人間の姿にも変わる不思議な“青サギ”。眞人はこの青サギに導かれるようにして、現実と幻想、生と死が交錯する異世界へと足を踏み入れていく。

このあたりまでは比較的わかりやすく、美しい映像とともに観客を物語の世界へと自然に引き込んでくれる。だが、そこから本作は一転して難解さを増していく。登場人物はどこか曖昧で象徴的に描かれ、世界のルールも明確には示されない。何が現実で、何が幻想なのか。眞人がなぜその場所にいるのか。そうした根本的な問いに対して、物語はあえて明快な答えを与えず、観る者に委ねてくる。
しかし、手がかりがないからと言って、退屈させられてしまうわけではない。本作は『となりのトトロ』や『もののけ姫』といった、過去のジブリ作品を想起させる場面が随所に盛り込まれており、どこか懐かしさを感じさせるつくりになっているからだ。たとえば、作中のある場面で13個の石が登場するシーンを、短編『On Your Mark』を含む宮﨑監督の13作品になぞらえる見方もある。このように、過去作との関係性から宮﨑駿の作家性を改めて読み解く視点で楽しむこともできるだろう。
主人公・牧眞人のモデルとは
最後に注目したいのは、「主人公・牧眞人のモデルが誰か」という点だ。雑誌『SWITCH VOL.41 NO.9 ジブリをめぐる冒険』のインタビューで、鈴木敏夫プロデューサーは、宮﨑監督が「なりたかったもうひとりの自分が眞人だ」と語っていたことを明かしている。
また、眞人が直面する戦時下の父親や、亡き母への思慕といった描写には、宮﨑監督自身の生い立ちが色濃く反映されていることからも、眞人のモデルが宮崎監督自身であることは想像に難くない。

とはいえ、この作品は監督の自伝ではない。あくまで“自伝的要素を含んだファンタジー”であり、私的な体験を素材としながら、そこからまったく別の世界を立ち上げている。ただ、眞人のまなざしを通じて、ふと宮﨑駿という人間の創作への想いや願いがにじみ出る瞬間がある。それに気づいたとき、この物語はより深く、個人的な物語として立ち上がってくるはずだ。
だからこそ、この作品と向き合うときに大切なのは、「すべてを理解しよう」と力まないことだ。メタ的な解釈で細部を読み解く面白さもある本作だが、最初はむしろ、言葉にならない引っかかりや、心がふと揺れた瞬間に耳をすませてみてほしい。明確な答えではなく、問いを抱えたまま歩き出すこと。それ自体が、この映画が私たちに託しているメッセージでもあるのだから。
■放送情報
『君たちはどう生きるか』
日本テレビ系にて、5月2日(金)21:00〜23:39放送
※放送枠45分拡大 ※初放送・ノーカット放送
声の出演:山時聡真、菅田将暉、木村拓哉、木村佳乃、柴咲コウ、あいみょん、滝沢カレン、大竹しのぶ、竹下景子、風吹ジュン、阿川佐和子、国村隼、小林薫、火野正平
脚本・監督:宮﨑駿
音楽:久石譲
©2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli





















