『あんぱん』は一体何を描こうとしているのか 朝ドラでは異例の“ヒーロー”を問う物語に

強さとは腕力や権力のことではない

女子師範学校に入学したのぶは、担任の黒井雪子(瀧内公美)からお国のために強くなれと叩き込まれる。黒井との勝負に完敗したのぶは「悔しいわ」とこぼし、強くなろうと決意する。この「強くなる」とはどういうことか。それが、ここからの『あんぱん』の鍵となりそうだ。
お国のために。それが、当時の正義だった。若き兵隊たちは、まるでヒーローのように見送られ、命を散らした。けれども、それすら尊い犠牲。それが、この時代のヒーロー論だった。
家族のために師範学校に来たというのぶを、黒井は「愚かしい」と一喝した。強くなることを決意したのぶもまたここから「お国のために」という軍国主義へと染まっていくのだろうか。規律厳しい師範学校での生活を通して、きっとのぶは本当の強さとは何かを自問自答していくことになるだろう。
一方、絵の道に進むことを決めた嵩には、これからどんな出会いが待ち受けているのか。史実通りに進めば、やがて徴兵により戦地へ駆り出されていくことになるはず。気が優しくて弱虫の嵩はそこで何を見るのか。

強くてたくましい人間だからこそ、時に道を誤ることもある。弱くて臆病な人間だからこそ、時に道を踏みとどまることができる。正義がある日突然逆転するように、のぶと嵩の強さと弱さが交差していくようなこともあるかもしれない。
時代が変わっても変わらない強さとは何か。きっとそれは敵を打ち負かす腕力や武力でもなければ、学年や序列といった階級によって形成された権力でもない。たとえば、お弁当を分け与える愛であったり、困っている人を助ける勇気であったり。『あんぱん』は、誰かを喜ばせるための優しさを強さと呼ぶための物語のように見える。そして、そんな愛と勇気を持った人を、僕たちはヒーローと呼ぶのだろう。
参照
『わたしが正義について語るなら』やなせたかし著(ポプラ新書)
※1、3. 第1章「正義の味方って本当にかっこいい?」より
※2. 第3章「正義の戦い方」より
※4. 第2章「どうして正義をこう考えるようになったのか」より
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















