『振り返れば奴がいる』は『鎌倉殿の13人』と似ている? 三谷幸喜の“原点”が詰まった快作

『振り返れば奴がいる』今こそ観るべき異色作

 これは当時の三谷がドラマ脚本家としては駆け出しで、まだ作家としてのスタイルを作っていく時期だったからこそ生まれた現象とも言えるだろう。作家の武器は自分の内側に秘めているオリジナリティで、それをどれだけ台詞や物語に落とし込めるかが成功の鍵となる。だが、プライムタイムで多くの視聴者を対象とするテレビドラマの場合は、自身の作家性だけでなく、時代の流行や旬の人気俳優といった外部の要素を作中に取り入れることが求められる。作家にとっては大きな枷だが、その制約を逆手にとって外部の要素をうまく取り込むことができると、当初は想定していなかった面白さが発生することがある。

 『振り返れば奴がいる』は、三谷がさまざまな要素と必死で格闘して苦しんでいる姿がドラマの面白さに反映されており、先の展開が読めない連続ドラマならではのライブ的緊張感に満ちている。

 こういった制約ゆえの面白さは、『新選組!』『真田丸』『鎌倉殿の13人』といったNHKの大河ドラマにも言えることだ。

 三谷脚本の大河ドラマが幅広い層からの支持を得ているのは、史実という枷を逆手にとることで奥行きのある物語を生み出しているからだが、そう考えると『振り返れば奴がいる』と一番似ている三谷作品は『鎌倉殿の13人』かもしれない。

 『鎌倉殿の13人』では、当初は真面目で優しい青年だった北条時行(小栗旬)が権力闘争を勝ち抜いていく中で闇落ちしていく姿が描かれたが、これは『振り返れば奴がいる』の石川と司馬の役割を1人の人間に集約させた描き方だったとも言える。

 三谷脚本の基調にあるのはコメディなので、善悪の問題に踏み込むことは少ない。だが、『振り返れば奴がいる』は正反対の医師の思想的衝突を通して、善悪の問題に深く踏み込んでいる。これは他の三谷作品にはない大きな魅力だ。

 その意味でも、三谷作品の歴史において原点であると同時に特異点だと言える。今こそ観るべきドラマである。

■放送情報
『振り返れば奴がいる』
CSホームドラマチャンネルにて、4月30日(水)19:20〜全11話一挙放送
※スカパー!では第1話~第6話を無料放送
出演:織田裕二、石黒賢、千堂あきほ、松下由樹、西村雅彦、中村あずさ、佐藤B作、鹿賀丈史
脚本:三谷幸喜
演出:若松節朗、河野圭太、木下高男
音楽プロデュース:飛鳥涼
主題歌:CHAGE and ASKA「YAH YAH YAH」
1993年
©共同テレビジョン
番組詳細ページ:https://www.homedrama-ch.com/series/18141

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