『あんぱん』登美子はなぜ“不穏”な母になったのか? 中園ミホ脚本の『アンパンマン』解釈

『あんぱん』登美子はなぜ“不穏”な母なのか

 彼女は嵩を柳井家に預けて再婚し、嵩が会いにきても、親戚の子だと言って拒絶した。それなのに今は離婚して柳井家に戻ってきており、嵩たちといっしょに暮らしている。何を考えているのかわからない登美子の行動に、嵩は毎回翻弄されるのだが、母親ゆえに完全に憎むことはできない。

 本作の登場人物は『アンパンマン』のキャラクターが下敷きとなっているようで、朝田家の三姉妹の着物の色(イメージカラー)から、のぶがドキンちゃん、蘭子がロールパンナ、メイコがメロンパンナではないかという考察が盛り上がっている。

 その観点から言うと紫の着物を来ている登美子はアンパンマンのライバル・ばいきんまんということになりそうだが、母親が悪役だとしたら、実に大胆な解釈である。

 松嶋菜々子は、中園ミホの代表作の恋愛ドラマ『やまとなでしこ』(フジテレビ系)で「心よりもお金が大事」だと言って、玉の輿にのるために合コンを繰り返す主人公の神野桜子を演じていた。桜子は女の武器を自覚的に使用するしたたかな女に見えるが、幼少期の極貧生活がトラウマとなり「お金を求めている」という屈折した内面を抱えていた。

 『あんぱん』の登美子は桜子と重なる部分が多く、登場人物の中でもっとも複雑な内面を抱えており、得体の知れない存在感がにじみ出ている。

 嵩にとって登美子は、男を破滅にいざなうファム・ファタール(運命の女)とでも言うべき存在だが、それが美しい母親というのが不穏で、だからこそ、のぶにとって最強の敵だとも言える。そんな登美子を中園ミホがどう描くのか楽しみである。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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