湯浅政明は何が偉大なのか? 映画『ちびまる子ちゃん』から最新作までのキャリアを総括

湯浅政明のキャリアを徹底総括

「動くこと」「変化すること」そのものを追求

 湯浅監督の作品の特徴は、まさに「動くこと、変化すること」にある。アニメーションは動かない事物を動かして生命を吹き込む技術だが、そのアニメーション本来の性質にことさら敏感な作家と言える。どこまでも伸び縮みするキャラクターたちの身体、背景動画を動かす空間の独特の把握能力、千変万化にその形状を変化させていくことそのものに、湯浅監督の強烈な個性が宿る。

 湯浅監督は、自身のルーツの一つに『ど根性ガエル』を挙げているという(※)。カエルがTシャツの中に宿り、ピョンピョンと飛び跳ねようと形状を変化させる様にはアニメーションならではのカタルシスが宿るが、湯浅監督は、現代にその魅力を伝える作家と言える。

 モチーフとして「水」を好むのも、形状が固定されないものであるからだ。水というモチーフを徹底して追及しているのは『夜明け告げるルーのうた』や『きみと、波にのれたら』といった作品で顕著だ。また、キャラクターの身体を自在に変化させていくという姿勢は、近年の『犬王』では映像表現としてだけでなく、物語のレイヤーにおいても発揮されている。

『犬王』©︎2021 “INU-OH” Film Partners

 また、現在日本アニメで主流のキャラクターデザインに固執しない姿勢も特筆すべき部分だ。過去作品を見ても、『マインド・ゲーム』はもちろんのこと、『ピンポン』では松本大洋の画風、『カイバ』では手塚治虫風のデザインに挑戦している。

 『ひな菊の人生』は装画を奈良美智が担当しているが、この奈良のデザインを採用するのだろうか。現在公開されている作品クレジットでは、「キャラクター原案(幼少期):奈良美智」となっている。だとすれば、湯浅監督はまたも異なる絵柄に挑むことになる。「幼少期」と断りが入っているので、それ以外の部分についてはまた別のデザインも加わることも考えられる。

 また、フランスのMIYUプロダクションとの共同製作であるのも気になる部分だ。同プロダクションは、近年日本との協業が多く、2024年公開の『化け猫あんずちゃん』では、背景を担当、2025年公開予定の四宮義俊監督作品『花緑青が明ける日に』にも参加している。これまでも短編作品で日本のインディーズ作家とも組んできた同プロダクションだが、いよいよ日本きっての天才と組むことになり、どのようなコラボレーションとなるのか、楽しみだ。

参照
※https://anime.eiga.com/news/column/hikawa_rekishi/107418/

 

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