【ネタバレあり】『片思い世界』広瀬すず×杉咲花×清原果耶の放つ“光”がなぜ美しいのか

『片思い世界』の放つ“光”はなぜ美しいのか

 幼い頃思い描いた未来予想図通りに生きていける人なんていない。小さな挫折や妥協を繰り返し、折り合いをつけて、ようやく納得のいく「今」があるという人が大半ではないか。一方、彼女たちは何でもできる。何もない場所に理想の我が家を作り上げ、思い思いに着たい服を着る。学びたいものを学び、働きたい場所で働く。観たいと思った話題のホラー映画を、3人で1つのストールにくるまって、騒ぎながら観ることができる。幼い頃の彼女たちが思い描く未来そのものが、今の彼女たちだ。

 一方で、本作は彼女たちが「目の前の困っている誰かのために何かをしたくてもできないこと」の悲しみを何度も描き続けた。それは本当に些細なことだ。こちら側の世界では、その日やったことの1つにすらカウントしないようなこと。例えば、目の前の子供が落としたぬいぐるみを拾ってあげること。誰もやりたがらない面倒な事務作業を片づけること。水族館の飼育員として、同僚のため「追加の餌」を運んであげること。世界と繋がれない悲しみの根源は、彼女たちの優しさにあった。

 彼女たちの世界の完璧さと綻びを見つめていたら、ままならないことだらけの私たちの世界が少しだけ愛おしくなる。彼女たちの気ままでご機嫌な3人旅は、きっとどこかでこれからも続いていく。その光景を想像しながら、私たちは私たちで楽しい旅を続けようと思った。

■公開情報
『片思い世界』
全国公開中
出演:広瀬すず、杉咲花、清原果耶、横浜流星、小野花梨、伊島空、moonriders、田口トモロヲ、西田尚美
脚本:坂元裕二
監督:土井裕泰
配給:東京テアトル、リトルモア
©︎2025『片思い世界』製作委員会
公式サイト:kataomoisekai.jp
公式X(旧Twitter):@kataomoi_sekai

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