北村匠海の芝居はなぜ“リアル”なのか 『あんぱん』でも発揮されている“まっすぐな想い”

3月20日に公開された映画『悪い夏』では、気弱で真面目な性格ゆえに犯罪に巻き込まれ、闇落ちしていく佐々木を怪演。生活保護受給者であるシングルマザー・林野愛美(河合優実)との出会いをきっかけに、少しずつ転落していく佐々木を演じきった。とくに圧倒されたのは生活に困窮し、生活保護を受けるために役所に出向いた古川佳澄(木南晴夏)に対し、罵倒して追い返してしまうシーンだ。
佐々木の焦点がおぼつかない不気味な目線は、古川を刺すように鋭い。その瞬間は佐々木でも、北村匠海でもなく、完全に“闇”が憑依していた。その他にも、林野に気持ちを寄せていた時、裏切られた瞬間。北村の大きな目は優しい光も、闇も映し出していく。この映画を見た後で『あんぱん』の第1話を視聴したが、そこに映る北村とはまるで別人だ。
北村は声がいい。『悪い夏』では気弱な青年を演じているせいか、独り言のようにボソボソと話すシーンが多めだが、言葉ひとつひとつを丁寧に発しているせいか、台詞は不思議と聞き取りやすく、ストレスフリーで楽しめた。北村は、DISH//のバンド活動においても、その美声を遺憾なく発揮している。「猫/THE FIRST TAKE」を初めて聴いた時、言葉を宝物のように大切に抱えながら、心を込めて思いを紡いでいこうとする北村の一生懸命な姿を見るなり、応援したい気持ちが溢れてしまい、そっと「いいね」ボタンを押してしまったことがある。
やなせたかし氏は、著書『わたしが正義について語るなら』において、正義は威張ることではなく、身近な人の幸せを祈ることだと語っている。その穏やかでまっすぐな想いは、優しくて真摯な声色を持つ「北村匠海」の姿と重なった。

北村と今田は、第10話から本格登場。通学途中、夢中になって本を読む嵩に、弟の千尋(中沢元紀)が「兄貴、遅れるで?」と声をかける。本を読む手を止めることのない嵩の背中は、小さくてどこか頼りない。そんな嵩に対し、「漫画読みながら歩い取ったら、遅刻するぞぼけぇ!」と、背後から威勢よく声をかけるのぶ。その声に対し、やっと本を読む手を止める嵩は「えっ? ボケ? きっ、君……。待ちたまえ!」と、声を震わせながら狼狽える。そんな嵩を翻弄するかのように、のぶは変顔をしておどけてみせる。
のぶの表情をみるなり、「ああ、なんだのぶちゃんか……」と安堵した表情を見せつつも照れくさそうに笑う嵩の姿は瑞々しくて、観ているこっちが照れてしまうほどに愛らしかった。

第11話では、夢や恋に思い悩む嵩の姿が顕著に現れる。義父の寛(竹野内豊)に将来の夢を聞かれるものの、周りの目を気にして素直になれない。寛の問いに対し、途切れ途切れの言葉で「まだ……まだわかりません……」と答える嵩は、どこか不安気だ。
そんな嵩の前に、精悍な顔つきをした貴島勝夫中尉(市川知宏)が颯爽と登場する。のぶと中尉が楽しそうに話す姿を見て、胸のドキドキがおさまらない嵩は、人生で初めて「嫉妬」を覚える。
嵩とのぶは、これから夫婦となり、共に支え合って生きていく。これから先、2人にどんな未来が訪れるのか。
参照
※ https://www.tokyo-prime.jp/contents-gallery/kitamuratakumi2
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















