『べらぼう』の“明るい横浜流星”をずっと見ていたい 陰のある役が似合うからこそ映える光

横浜流星はクールで物静か、熱い思いは胸の内に秘めるタイプ。それゆえ、どこか陰のある役が似合う。筆者はこれまでそう思っていた。しかしいま、そのイメージとは真逆の役柄を魅力一杯に演じる横浜がいる。それは、NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の“蔦重”こと主人公・蔦屋重三郎。裏表のない明るさを持つ人物だ。
本作は、吉原の貧しい庶民の子に生まれた蔦重(横浜流星)が、“江戸の出版王”に成り上がっていくさまを描き出したもの。ここからさらに波乱万丈な人生を突き進んでいくことになる彼はいま、“本”というメディアを利用し、吉原を盛り上げようと奮闘している。蔦重は、とにかく明るい。ここで言う「明るい」とは、快活で何事にも前向き、裏表のない、周りを巻き込むようなパワーがある人のこと。“根明”なんて言葉に置き換えてもいいかもしれない。

『べらぼう』は、蔦重の「明るさ」が物語を前へと進めている。例えば、第3回「千客万来『一目千本』」では、蔦重が『吉原細見』の発行に深く関わっていることを育ての親の“親父”こと駿河屋市右衛門(高橋克実)が知ることに。引手茶屋の跡取りとして期待していたからこそ、本づくりをする蔦重に激怒する。殴り飛ばされたうえに店からも追い出された蔦重だが、それでも諦めずに吉原を盛り上げるための奇策を練る。そして、吉原の女郎たちを花に見立てて描いた『一目千本』を考案。この本は、吉原に活気を取り戻すきっかけともなり、吉原を取りまとめる女郎屋の主・扇屋宇右衛門(山路和弘)の一押しもあり、ついに親父は蔦重を本屋として認めるのだった。
また、第7回「好機到来『籬(まがき)の花』」では、蔦重はいままで『吉原細見』の製作を担ってきた地本問屋・鱗形屋(片岡愛之助)に変わって新しい細見を作ることになる。1冊の売値をこれまでの半額にする一方で、内容はこれまで以上に充実したものにしようと模索。そんな最中、江戸市中の地本問屋・鶴屋喜右衛門(風間俊介)や西村屋与八(西村まさ彦)の思惑が立ちはだかる。それでも「吉原の女郎たちが江戸一番の女だと誇れるような本を作りたい」と親父たちに熱い思いを語り、協力を得ていく。

さらに、吉原の祭りの様子が描かれた第12回「俄(にわか)なる『明月余情』」では、祭り開催にあたって女郎屋・大文字屋市兵衛(伊藤淳史)と若木屋与八(本宮泰風)が対立。祭りが盛り上がるような企画をと吉原の親父たちから相談を持ちかけられていた蔦重は、その内情を面白く文章にまとめようと、戯作者・朋誠堂喜三二こと平沢常富(尾美としのり)に依頼。しかし、すでに鱗形屋から青本を出版していたため、話は立ち消えに。祭りが始まり活気に溢れた町や人々の様子を目にした蔦重は、この熱狂を残そうと決意。役者絵師・勝川春章(前野朋哉)に絵を依頼するとともに、平沢には記念冊子『明月余情」』の序文を再び依頼。完成した冊子は、祭りの記念として飛ぶように売れたのだった。
怒られても凹まない。いや、凹んでも次の瞬間には、その一歩先を見据えて行動する。そしてその行動力は、いつしか吉原全体を明るく照らしていく。蔦重の明るさは、いまや吉原の明るさともなっている。注目したいのは、そんな明るい蔦重をこれまで陰のある役で高い評価を得てきた横浜が演じているということ。

横浜は先日発表された第48回日本アカデミー賞で『新聞記者』(2019年)や『余命10年』(2022年)で知られる藤井道人監督作『正体』(2024年)で最優秀主演男優賞を受賞している(本作品は最優秀監督賞も受賞)。演じた役どころは、死刑囚として収容されるも脱獄して、警察から追われることとなった逃亡犯・鏑木。身分を偽りながら逃亡し続ける鏑木には5つの顔があった。見るからにヤバそうな工事現場の従業員や、マスクで顔を覆ったフリーライター、おそらく目元は整形したのであろう工場職員、爽やかな好青年風な介護職員、そして逃亡犯の鏑木。1つの作品で5つの役を見事に演じ分けた。
さらに、松坂桃李と広瀬すずのW主演映画『流浪の月』(2022年)で演じた役も、横浜を語る上では外せない。誘拐事件の元被害女児・家内更紗(広瀬すず)の恋人の中瀬亮だ。物語が進むにつれ、更紗への愛情が徐々に支配や暴力へと変わっていく姿が妙にリアルで、“横浜流星が嫌いになりそう”と話題にもなった。このときは陰というより、闇に近かったかもしれない。




















