『べらぼう』市原隼人から溢れ出る人間味 鳥山検校としての“揺らぎ”は絶品の名演に

この“盲目”については、市原の演技に対する熱量の高さが伺える。目を白濁させるためのコンタクトレンズを自身で製作を依頼し、装着して撮影しているのだ。このコンタクトレンズはただ目が濁って見えるだけではなく、視野が通常の2割程度までぼやけてしまい、横から光が入れば全く見えなくなってしまうとのこと。そのほかにも視覚障害者の生活を支援するセンターに取材をしたほか、撮影が始まる30分前に現場に入り、鳥山ならどういう場所に立ち、どういうことを思い、どんな仕草をするのかをひとりで繰り返し確認したという。(※)
また、演技へのアプローチだけでなく、鳥山という人物への解釈も面白い。

初会のお座敷での瀬川の“共犯”のような振る舞いは「今まで自分と同じ方向を見てくれる人が誰もいないと感じていた検校に、瀬川が寄り添ってくれた。その姿勢が、なかなか人間愛というものを感じられず、優しさに飢えていた鳥山検校を魅了したのかなと思います」と解きつつ、瀬以とは、地獄にいる鳥山検校にとって芥川龍之介の『蜘蛛の糸』みたいにやっと垂れてきた蜘蛛の糸のような存在だった、だから手放すことは絶対にできなかった、と解釈を語っており、言い得て妙である。(※)
言葉通り“体現すること”への執着が鳥山役のリアリティを生み、作中では決して多くはない登場シーンで積み上げてきたものが、第13回の名演技へと繋がったのだろう。
その第13回ラストで鳥山は幕府に摘発され、続く第14回予告では瀬以と蔦重(横浜流星)が再会する様子が映っている。単純に見れば勧善懲悪の向きではあるが、鳥山が単なる“悪役”だとは思えないのは筆者だけだろうか。市原が描き出した鳥山の魅力に完全にやられてしまった。
市原は大河ドラマへの出演は『べらぼう』が3作目。『おんな城主 直虎』では僧侶・傑山役、『鎌倉殿の13人』では八田知家役を演じ、どちらも退場が惜しまれた愛すべきキャラクターだった。本作で鳥山という異質な役柄をも見事にこなした市原。これからも大河ドラマの常連となるのは必然だろう。
参考
※ https://steranet.jp/articles/-/4239
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK






















