『風、薫る』“シマケン”佐野晶哉が問いかけるメディアの影響力 “他人を救うこと”の難しさ

『風、薫る』佐野晶哉が問うメディアの影響力

 馴染みの客と副毒自殺を図り、帝都医科大学附属病院に搬送されてきた女郎の夕凪(村上穂乃佳)。男性のほうは死亡し、夕凪は一命を取り留めるが、置屋に戻れば再び地獄が待っている。

 そんな夕凪をどうにか助けようとするりん(見上愛)のために、“シマケン”こと島田(佐野晶哉)が大胆な行動を起こしたNHK連続テレビ小説『風、薫る』第51話。救うということに対する方向性の違いから、2人は初めてぶつかり合うのだった。

 もともと女郎は、借金を返し終わるまで遊廓を出られない仕組み。しかし、りんは卯三郎(坂東彌十郎)から女郎の自由廃業を進めている“廃娼運動”というのがあるのを知り、その活動について取材している新聞社を訪ねる。だが、まだ自ら声を上げる女郎は少なく、実際に自由廃業できた女郎も一人もいなかった。

 肩を落とすりんに、編集長の綿貫(小松和重)は夕凪が廃娼運動に加わるのはどうかと提案する。それはすなわち、夕凪が矢面に立たされるということ。ただでさえ、偏見や差別を向けられている女郎が自分の権利を訴えれば、どんな批判が飛んでくるかわかったものではない。置屋を裏切ったとして報復される可能性だってあるし、夕凪が声を上げたことで社会の仕組みが変わったとしても、夕凪自身が救われるとは限らないのだ。その上で夕凪に人柱になれとは、りんにはとても言えなかった。

 一方、直美(上坂樹里)は夕凪に寄り添い、献身的な看病を続けていた。源氏名の夕凪ではなく、魚住セツという本名で直美に呼ばれた夕凪は久しぶりに人間として扱ってもらえた気がしたのだろう。以前よりも表情が穏やかになり、直美にも少しずつ心を許し始めていた。

 かたや直美も産みの母と見られる遊女と同じ名前を持つ彼女に対して、特別な感情を抱いているようだ。患者に肩入れせず、常に冷静で淡々と自分にできることをこなすところが看護婦に向いていると思われた直美。だが、夕凪に対してはつい看病にも力が入り、「助けたい」という気持ちで前のめりになる。

 その一方で、「助ける」というのはとても難しいことだ。看護婦にとっての「助ける」とは通常、患者への適切なケアを通じて、その苦痛を和らげ、心身の回復を促すこと。しかし、夕凪は回復次第、置き屋に戻され、再び借金を返すために働かされる。今、自分たちにできることは何なのか。りんと直美は夕凪にとって一番いい形となる救い方を模索しようとしていた。

 そんなある日、新聞に「開化哀話 悲しき戀の心中」という記事が掲載される。その話は登場人物の名前と設定こそ書き換えられていたものの、読む人が読めば、すぐに夕凪の話であることがわかるようになっていた。副毒自殺に使われた毒の種類まで詳細に綴られており、りんと直美は患者の情報を外部に漏らした疑いで副院長の渡辺(森田甘路)に呼び出される。直美はひたすら白を切ることでその場を切り抜けるが、りんが新聞の人間に夕凪の一件を話したことが知られれば、クビは免れない。そんな危ない橋を渡ろうとしている2人を、バーンズ(エマ・ハワード)は止めなかった。ただ「うまくやりなさい」と伝え、2人はその言葉を肝に銘じる。

 記事の件について相談するため、再び卯三郎のもとを訪ねたりん。すると、店に来ていた島田が記事は自分が書いたと告白した上で、「新聞には、文字には力がある。世間に夕凪さんのことを知らせたら、きっと……」と、あくまでも夕凪を救うためにやったことだと主張した。また記事は幼なじみだった夕凪と馴染み客が副毒自殺を図った設定で書かれており、卯三郎は「私がりんさんに聞いた話よりずっと心動かされるものになっている」と評価する。だが、もしも置屋の主人である権田(梅垣義明)が記事を読んだら、夕凪の仕業とみて報復を仕掛けてくるかもしれない。夕凪を助けることに対して慎重になっているりんは、何の相談もなしに勝手な行動を起こした島田に対して怒りをあらわにした。

 りんは島田が小説家を目指していることを知っているため、夕凪のことをネタにされたと勘違いしたのかもしれない。一方で、島田自身の行動も100%善意とはいえず、想いを寄せるりんの役に立ちたいという気持ちもあったのではないだろうか。夕凪のエピソードが教えてくれるのは、人を助けることの難しさ。その過程ですれ違ってしまったりんと島田だが、誤解が解けて元の関係に。いや、以前よりもさらに関係性が深まることを願わずにはいられない。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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