『ドライブ・マイ・カー』『ガンニバル』 “世界”を経験した山本晃久のプロデューサー論

山本晃久Pがディズニーで目指すこと

 第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された『寝ても覚めても』、第77回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した『スパイの妻〈劇場版〉』、そして第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞、第94回アカデミー賞では国際長編映画賞受賞の快挙を成し遂げた『ドライブ・マイ・カー』。そのほか数々の映画やドラマを手がけてきたのが、プロデューサーの山本晃久だ。現在はウォルト・ディズニー・ジャパンにて、『ガンニバル』をはじめとするディズニープラス「スター」のオリジナル作品の制作に携わっている。プロデューサーとして“世界”を経験してきた彼は、今後ディズニープラスでどのようなことを成し遂げようとしているのか。

シンパシーを感じたディズニーの“ストーリーテリング”

ーー山本さんは昨年『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞授賞式に参加されていたことも記憶に新しいのですが、そもそもいつウォルト・ディズニー・ジャパン(以下、ディズニー)に入社されたんですか?

山本晃久(以下、山本):2021年の春に入社したので、約1年半経ちますね。なので『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞の授賞式に出席したときは、もうすでにディズニーの社員でした(笑)。

ーーなるほど(笑)。その前は制作プロダクションのC&Iエンタテインメント(以下、C&I)にいらしたんですよね。ディズニーに入社することになった背景を教えてください。

山本:ディズニープラスで現在、日本オリジナルコンテンツの制作部門を統括するエグゼクティブディレクターの成田岳からの誘いです。成田はフジテレビ出身で、ディズニープラスに行く前はNetflixでも働いていたことがあるんですが、成田がNetflixにいるときに、僕はC&Iのプロデューサーとしていろいろ企画を出していて、その中で意気投合して「もっといい作品をたくさん作りたいね」という話をしていたんです。その後、成田がディズニーに入って、ディズニープラスの中で「スター」という新コンテンツブランドを立ち上げるタイミングで、ありがたくも「一緒にやりませんか」とお声がけをいただいたかたちです。

ーーご自身の中で転職の一番の決め手はなんだったんですか?

山本:100年にわたってエンターテインメントを第一線でやり続けてきたディズニーが一番大切にしているのが“ストーリーテリング”。観る側=お客さんのことをまず第一に考えていて、その考えに非常にシンパシーを感じたんです。僕は、“自分が面白いと思えるものを作る”ということが、作品を作る上での自分の中での目的だったのですが、観客やユーザーのことを真剣に、深く考えたいという思いが芽生えてきたタイミングだったので、本当にいい機会にチャンスを与えていただけたなと思います。

ーーなるほど。とはいえ、これまで山本さんが手がけられてきた作品から、ディズニーのイメージはあまり思い浮かんでこないのが正直なところです(笑)。

山本:まあそうですよね(笑)。でも、それはそれとして、やっぱり大きいのは「スター」というブランドですね。20世紀スタジオ、サーチライト・ピクチャーズを筆頭に、今後ディズニーは多種多様な物語を作っていくという姿勢を打ち出していくことで「スター」が生まれたわけなんですが、成田から誘っていただいた当時だと、クロエ・ジャオ監督が手がけたサーチライト・ピクチャーズの『ノマドランド』がアカデミー賞作品賞を受賞したタイミングで。ああいう作品を作ることができる度量の深さ、企業としての大きさをディズニーに対してすごく感じましたし、作り手のことはもちろん、受け手のこともきちんと考えていることが、企業の根本的な基本姿勢として備わっていると感じたので、そこに惹かれた部分が大きかったです。実際に入社してみても、自分が思っていた通りだったので、本当に入ってよかったと思っています。

ーー山本さんがディズニーに入社してから手がけられているのは、今のところ『拾われた男』『すべて忘れてしまうから』『シコふんじゃった!』、そして12月28日から配信がスタートした『ガンニバル』の4作品です。中でも『ガンニバル』はもっともディズニーらしくない作品と言いますか、「ディズニーでここまでできるんだ」と驚きのある作品でした。

山本:個人的に、“ジャンルもの”ってもっと育っていくべきだと思っているんです。なので、ディズニープラスという大きい舞台で『ガンニバル』のような作品を発表できること自体がまず素晴らしいなと思っています。ただ、『ガンニバル』に関しては、もちろんジャンルものではありつつも、そこにとどまらない深いテーマ性を読み取ることができたんですよね。

ーー文化や文明の衝突などですよね。

山本:その通りです。原作には、人間社会のすごく深い部分が描かれていたので、それを生身の人間が演じて、どう見せられるかということに、企画の時点から非常に興味がありました。それと「ディズニーらしくない」というのはまさしくその通りで、「スター」立ち上げのときに「ディズニーだけじゃない」というキャッチコピーを使っていて。これが新しいブランドのあり方なんだということをユーザーの皆さまにも理解してもらいやすい作品になっているのではないかと思います。

『ガンニバル』©2022 Disney

ーー日本の村社会を描いた作品ではありますが、題材的にも映像的にも“海外”を意識されている部分があるのかなと感じました。

山本:それはもちろんそうですね。日本で作るからには、まずは日本の観客の方に満足していただけるのが一番だと思うのですが、それ以上に、ディズニープラスでの世界配信ということで、それこそ文化の違いを超えて、阿川大悟(柳楽優弥)という1人の人間とその家族がたどっていく道に対して、たくさんの方に共感性を持って共鳴していただきたいなと思って、片山慎三監督や脚本の大江崇允さん、岩倉(達哉)プロデューサーと作ってきたので。世界からどういう反応をいただけるかはすごく楽しみですね。

ーー『ドライブ・マイ・カー』のように、世界的に評価されることを期待している日本の映画ファン、ドラマファンも多いのではないかと思います。

山本:プレッシャーに感じてもしょうがないというか、やっていくべきことは変わらずに、面白いものをただ真摯に作り続けていくのみかなと。その結果として、そういう評価に繋がっていったら、もちろんそれはものすごく嬉しいことだと思います。

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