『まどか26歳』が“ベイスターズ愛”に至った理由とは? 塩村Pがこだわった医師たちのリアル

芳根京子主演ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS系)には横浜DeNAベイスターズの要素が隅々までちりばめられていた。主人公・まどか(芳根京子)の部屋のグッズから応援シーン、さらには人間関係を深める重要な役割まで、“ベイスターズ推し”の設定は本作で重要な役割を担っていた。
なぜベイスターズファンを唸らせるほどの徹底した描写がなされたのか? 塩村香里プロデューサーにドラマ制作にあたって抱いていた構想から、現場やリサーチから生まれた設定の裏側まで話を聞いた。最終回にはベイスターズファンが喜ぶ「隠し玉」も用意されているとか……。
ベイスターズが日本一になったのは何かの運命

ーー『まどか26歳、研修医やってます!』は驚くほど“ベイスターズ推し”でした。ドラマのあらゆるところにベイスターズ要素がちりばめられていて、ベイスターズファン目線でもこの徹底ぶりに感動しました。どのような構想で制作されたのでしょうか?
塩村香里P(以下、塩村):最初は原作発信です。「お医者さんだって、幸せになりたい!」というコピーがあるように、お医者さんは聖人君子じゃないし、人間らしさもある。そうした原作者の水谷緑先生が描きたかったものを描くには、まどかに趣味や好きなことがあって、自分が好きなものに対してちゃんと諦めないキャラクターにしたいと思ったんです。それで、原作のまどか先生にもあった「野球好き」という設定をちゃんと大切にしようと話し合いました。ドラマを制作するにあたって、まどかのモデルになった先生に私たちも会いに行ったのですが、その時も先生は推し球団の服を着ていたんです。「本当にお好きなんですね!」と盛り上がりました(笑)。「部屋の一角にも球団グッズのコーナーがあります」というお話も聞けたので、ドラマのまどかもグッズや部屋の作り方まで意識しようと始まったのがきっかけでした。
ーー過去のドラマでも野球ファンの描写はありましたが、ここまでの解像度が高いファンの描き方はなかったように思います。
塩村:いくつかターニングポイントがありました。球場での撮影の時に、ベイスターズのファンクラブの方たちにお力添えいただいたのですが、本当に皆さん温かくて、撮影にすごく協力的だったんです。空き時間にも芳根さんに応援の仕方を教えてくれたり、「お疲れ様です」って声をかけたら、みなさんが応援歌で返してくださったり(笑)。その時「ベイスターズファンの方たちはなんて素敵なんだろう!」と思ったんです。そんなベイスターズファンの一員であると、まどかのキャラクターの一部として作ったからには、最初の掴みだけで使っておいて、物語が進むにつれてその設定がなし崩し的になくなるというのは、ベイスターズファンの皆さんに顔向けできないなと。それで、なんとかして最後までまどかを形作る大事な要素として出したいと思っていました。

ーー私もベイスターズファンなので大変嬉しい限りです。ただ、時系列の問題がありますよね。
塩村:そうなんです。第6話までが2024年から2025年の2月までなのですが、第7話からは2025年の春で未来になります。ベイスターズさんに協力してもらうことは日本シリーズで優勝される前に決まっていたのですが、このタイミングでベイスターズが日本一になったのは何かの運命だから日本一の瞬間は絶対に描きたいと話していました。でも、そこに時間をあわせると、作品の後半からは完全に未来の時間軸になるので、試合の映像や実在する選手についての言及はできなくなります。それならば、まどかが向き合うことになる患者さんとの共通言語としての役割を担ってもらうことができたらと考えました。まどかにとって、自分の医師として、人としての将来を決める1つの分岐点である吉岡さん(金田明夫)もベイスターズファンにすることで、2人の距離が近づく部分を表現できるのではないかと思ったんです。
ーー確かに。
塩村:試合が描けない代わりに、ファン同士の交流みたいな部分で使わせていただいたら、観ている方たちも「前半だけで使ったわけじゃないんだな」と思ってもらえると思いまして。ちなみに、最後の最後には結構大きな隠し玉がありますよ。最終回に「ベイスターズさん、こんな協力までしてくれるんだ」って思うようなことがあります。

ーーそれはとても楽しみです。今おっしゃっていただいたことは、1人のベイスターズファンとして大変嬉しい言葉でした。解像度が高いことが本当に驚きで、ファンとしてもすごく幸せな作品でした。
塩村:ありがとうございます。補足すると、作家チームの中にも猛烈な野球ファンの方が1人いました(笑)。その方の“野球的監修”もあって、「このタイミングでファンはこんなことはしません」といったアドバイスもいただきながら作っていました。
大西流星の芝居によって変化した五十嵐翔

ーー主演の芳根さんはもちろん、キャスト陣が適材適所で非常に魅力的です。特に五十嵐翔役を演じたなにわ男子の大西流星さんですが、普段演じられるような役とは違っている印象を受けました。
塩村:大西さんは私も松本桂子プロデューサーも、これまでに2作品でご一緒しました。普段からキャラクターとして多彩な方だなと思っていました。一方で、彼が今まで演じられていた役が、本人の面白さを最大限に引き出せてないような気もしていて。もう少し本人のカッコいい“じゃない”部分というか、アイドルとしてのカッコいいではなく、毒舌的なところや、1歩引いて周りのことを見守ってくれる温かさだったり、そういうところがすごく魅力的だなと以前から思っていたんです。今回はオリジナルキャラクターを作りたいと思っていたのですが、髙橋ひかるさん演じる千冬とまどかと3人でおしゃべりをするシーンを描く時に、今までの火ドラだったら絶対女性3人になるんですよ。例えば萌ちゃん(小西桜子)が入ってくる、みたいな。だけど、ちょっとそれを変えたいなと思ったんです。
ーーなるほど。
塩村:でもそこに普通の青年が入ってくるのも、ちょっと違和感があります。人生の話をするシチュエーションがたくさんあるので、仕事の話や恋愛の話など、いろんな話をしてても違和感なくいられる男の子のキャラクターを作りたいと思った時に、大西くんのことを思い出したんです。きっと大西くんだったらそこに違和感なく溶け込んで、なおかつツッコむ時はツッコミ、見守る時は見守るという、イメージしていた五十嵐のキャラクターにすっと馴染んでくれそうだと思ったんです。
ーー実際の演技はどう見られましたか?
塩村:実際イメージ通りではありましたし、当初想定してたよりも温かく見守る部分の雰囲気が増したとも思いました。最初はもっとズケズケ言うキャラクターでもいいかなと思っていたのですが、第3話でまどかがガン患者の中山さん(小久保寿人)に対して「本当に自分はちゃんと向き合えてるんだろうか」と心配しているときに、五十嵐が刺繍をしながら「それで大丈夫だよ」と言うシーンがありました。そのときに、このバタバタした同期のメンバーたちをそっと見守るお母さん的な役割が五十嵐にはあるよなと思ったんです。なので、ツッコむ時はツッコむのですが、後半にかけて五十嵐の優しさの部分を足していったのは、大西さんの芝居があってこそです。