『メダリスト』“さりげない”CG表現の新規性 いのりの成長とともに豊かになるカメラワーク

『メダリスト』の「ポストシネマティズム」における新規性

ただ面白いのは、もう少し細かく視聴すると、『メダリスト』では、その表現にも回を追うに従って、繊細な変化が見られるのがわかることだ。
たとえばscore04「名港杯 初級女子FS(前)」でいのりは、司と組んで初の本格的な大会(名港杯)に出場する。お互いをライバル視する三家田涼佳との競技を制して、いのりは初級女子で暫定1位を獲得し、だいたいこの回以降から彼女のリンクでの滑走シーンが本格的に描かれていくことになる。それ以前にももちろん、いのりの滑るシーンは登場するが、司の指導が本格的に始まる以前で、むしろ司や三家田、狼嵜光など、彼女の周辺人物の滑走シーンが登場する。

結論から書けば、いのりが名港杯に出場するまでの最初の数話のフィギュアのダンスシーンは、止め絵、水平方向の運動など、――CG作画にもかかわらず――むしろ日本式リミテッドを髣髴とさせる演出が目につく。考えてみると、水平方向に横滑りするフィギュアスケートの動きは、アニメティズム的な横スクロールの表現にも向いていると言えば向いている。
それが、前半の最初のクライマックスと言っていいscore04のBパート、名港杯でのいのりのダンスシーンになると、ルッツ、アクセル、そしてスピンへと繋がる一連の動きが、彼女を見守る司や高峰瞳とのカットバックを挟みながら、CGの特性を存分に活かした、流れるようなカメラワークで存分に表現されている。もちろんその後も、日本式リミテッドのような演出がなくなったわけではないものの、こうした表現の変化は、score07以降の1級バッジテストでの演技など、続く同様のシーンでも基本的に受け継がれている。
この演出の変化には、ヒロインのいのり自身の、フィギュアスケートに対する身体的な向き合い方と、それに付随する視聴者のキャタクターへの感情移入の度合いの変化が関わっていると見ることができる。

大会出場前の映像に目立って見られる日本式リミテッドの表現は、視覚的なインパクトや迫真性があるものの、それを観ている視点人物≒主人公であるいのりの身体感覚と連動しているわけではない。あくまでも自分の外側で生起している動きを見ているという印象が強い。しかし、名港杯以降で印象的に目立つCG的なカメラワークは、いのり自身の身体の迷いが消え、より自由に動くようになった状態が視覚的に表現されているように見える。同時に、(作中の視点的にはしばしば司と同一化する)視聴者の方も、あたかも「いのりと一緒に滑っている」かのようなカタルシスを感じることができるだろう。
デジタル化によってスポーツアニメも新たな表現を獲得したが、『メダリスト』もまた、それを物語の展開やキャラクターの魅力とうまく掛け合わせながら、巧みに活かしていると言える。
■放送情報
『メダリスト』
テレビ朝日系“NUMAnimation”枠にて、毎週土曜25:30~放送
各配信プラットフォームにて配信中
キャスト:春瀬なつみ(結束いのり役)、大塚剛央(明浦路司役)、市ノ瀬加那(狼嵜光役)、内田雄馬(夜鷹純役)、小市眞琴(鴗鳥理凰役)、坂泰斗(鴗鳥慎一郎役)、木野日菜(三家田涼佳役)、戸田めぐみ(那智鞠緒役)、小岩井ことり(大和絵馬役)、三宅貴大(蛇崩遊大役)、伊藤彩沙(鹿本すず役)、加藤英美里(高峰瞳役)
原作:つるまいかだ(講談社『アフタヌーン』連載)
監督:山本靖貴
シリーズ構成・脚本:花田十輝
キャラクターデザイン:亀山千夏
総作画監督:亀山千夏、伊藤陽祐
フィギュアスケート振付:鈴木明子
フィギュアスケート監督・3DCGディレクター:こうじ
3DCGビジュアルディレクター:戸田貴之
3DCGアニメーションスーパーバイザー:堀正太郎
3DCGプロデューサー:飯島哲
色彩設計:山上愛子
美術監督:中尾陽子
美術設定:比留間崇、小野寺里恵
撮影監督:米屋真一
編集:長坂智樹
音楽:林ゆうき
音響監督:今泉雄一
音響効果:小山健二
アニメーションプロデューサー:神戸幸輝
アニメーション制作:ENGI
©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
公式サイト:https://medalist-pr.com
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/medalist_PR






















