『ガンダム』はJ-POPの“現代性”を写す鏡 初代から『ジークアクス』まで音楽面を振り返る

『ガンダム』はJ-POPの“現代性”を写す鏡に

 前置きが長くなったが、ここからは『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』を劇場で観たうえでの、その音楽を紹介していきたい。まずは視聴者にとてつもないインパクトを与えた『機動戦士ガンダム』のifを描いた前半パートについて。こちらは渡辺岳夫、松山祐士による“ファーストガンダム”で使用された楽曲たちがふんだんに盛り込まれている。こちらについては前半のプロットと脚本を手がけた庵野秀明が、『シン・ゴジラ』以降の作品でより顕著になった、過去のマテリアルを再利用するサンプリング的な手法を思わせつつ、全編にわたって渡辺&松山サウンドで彩るという、実に“ファーストライク”な音響を楽しむことができた。

 そこから物語は一年戦争からおよそ5年後の宇宙世紀0085年に移行し、マチュたちが暮らすサイド6のイズマコロニーを舞台に、前半とはガラリと変わった世界観が展開される。イズマコロニーは駅構内の表示をはじめ、近未来のモチーフを持たせつつも現代日本を思わせるフレッシュな背景がうかがえる。そのなかで聴かれる音楽は、本編前半あるいは『ガンダム』の代名詞でもある重厚なオーケストレーションではなく、実に“イマっぽい”風合いがある。その劇伴を手がけたのはふたりの若きクリエイター・照井順政と蓮尾理之だ。

 照井はポストロックを基調としたバンド・ハイスイノナサのメンバーであり、2020年に解散したアイドルグループ・sora tob sakanaのプロデュースを務め、アニメ『呪術廻戦』シリーズでの劇伴でも知られるクリエイターだ。また蓮尾はSchool Food Punishmentのメンバーとして数々のアニメ主題歌を手がけ、バンド解散後には照井と共にsiraphを結成している。そんなふたりが手がける『GQuuuuuuX』の劇伴で、まず耳をひくのはデジタルな音色たちだ。ポップでどこか都会的な世界観に合った空間的な音色や軽快なビート感など、クラブミュージック的なアプローチが聴かれる。前半パートの渡辺&松山サウンドとのコントラストも相まって非常にフレッシュな耳心地となっている。またモビルスーツ戦で聴かれる蓮尾による「クランバトル」は無骨なビートが印象的なテクノナンバーで、洗練されつつスピード感と重厚感を兼ね備えるマシーナリーなサウンドが聴かれる。その一方でマチュがGQuuuuuuXに搭乗したあとに流れた照井の「目覚めたい魂たち」では、照井らしい空間的な音色と共に『ガンダム』らしいオーケストラ調の構成もあり、新しい『ガンダム』音楽の解釈が提示されているようでもある。

劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)-Beginning-』オリジナルサウンドトラック 試聴動画

 とはいえ、『Beginning』で聴かれる劇伴はその一端であり、全貌が明らかにになるのはやはりTVシリーズの放送を待つしかない。事実、2月22日から劇場で公開となった特別映像のなかで流れるのはクラブミュージック的とはかけ離れたストレートなバンドサウンドであり、ますます『GQuuuuuuX』の劇伴がどんなスタイルとなるのかはわからなくなってしまった。しかし一方で『Beginning』のパンフレットにて、照井が寄せたコメントのなかに劇伴へのヒントのようなものが転がっていた。照井曰く、当初鶴巻監督からのオファーのなかにあったのは「全編歌モノでも良いんじゃないか」ということだったそう。そのアイディアは制作のなかで変化していったそうだが、照井は「音楽の核にはポップな歌モノを据えるという部分は揺らいでいないです」と語っている。

 そうしたなかで現在配信されている劇伴EPのなかには「コロニーの彼女」というボーカルトラックが収録されている。ニャアンが運び屋と会話するシーン、あるいはスタッフロールの最後に流れるこの曲。全編女性シンガーの「ラララ」というスキャットで構成されており、まさに照井の言う“ポップな歌モノ”が垣間見える一曲になっている。こうしたエッセンスが以降のTVシリーズでも有効に活用されていくのではなかろうか、とここでは予測しておこう。

コロニーの彼女(I_006A)

 そして、『GQuuuuuuX』の音楽において、鶴巻の「全編歌モノ」という当初の構想について話を戻そう。ここで多くの人が思い出すのは、2000年の鶴巻監督作『フリクリ』だろう。本作では主題歌も含めてロックバンド・the pillows(奇しくも2025年1月31日に解散)による多くの楽曲たちが作中に鳴らされた。そうした作品世界を彩る歌モノというスタイルは、すでに『Beginning』でも踏襲されている。

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』に潜む『フリクリ』的ダイナミズム 鶴巻和哉の作家性

テレビ放送前の先行上映という形で上映中の『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』が大ヒットを記録して…

 まず、マチュとニャアンが初めて会話する印象的な夜のシーンで流れるのは、NOMELON NOLEMONによる「ミッドナイト・リフレクション」だ。コンポーザーのツミキとシンガーのみきまりあから成るユニットは、ネットシーンを中心に支持を得るユニットだ。ドラムンベースのビートが軽快に鳴らされるなか、みきまりあのボーカルが最初は静かに歌われ、やがてそれがサビに向けて高揚していく。トラックも実に多彩で、アコースティカル中心の音色が徐々にエレクトリックな様相を聴かせる流れも緻密で、この展開美は現在配信中のフルバージョンでより深く堪能することができる。

ミッドナイト・リフレクション

 続いて終盤のクランバトルで流れるのは、ソロはもちろん、TAKU INOUEとの音楽プロジェクト・Midnight Grand Orchestraでも活躍中の人気VTuber・星街すいせいによる「もうどうなってもいいや」。スタイリッシュなトラックのなかで星街のパワフルな歌唱が冴え渡る、これもまたモビルスーツ戦のなかで爽快感を加えたフレッシュな聴き心地にさせる一曲。こちらは現在Movie editionが配信中で、フルバージョンではどうなるのか期待される。

もうどうなってもいいや - Movie edition -

 そして、マチュがGQuuuuuuXに搭乗し、いよいよガンダムが起動するという本編ハイライトで流れるのが、『Beginning』主題歌である米津玄師の「Plazma」だ。すでに方々でのインタビューなどで語られているが、本作は米津が音楽を始めた頃の”無邪気さ”を入れ込んだ、ある意味での原点回帰的な楽曲となっている(※)。一方で『GQuuuuuuX』の仮想戦記というifの世界への思いも馳せた歌詞世界など、米津の現在の心境と本作への熱量がクロスするような仕上がりにもなっている。またそうした楽曲を米津ひとりで作り上げているというところもトピックのひとつで、これもまたひとりで音楽を作ってきたキャリア初期のスタイルを想起させるものがある。冒頭のボーカルフレーズのあとに聴かれるボーカルのカットアップはボカロ的でもある、という指摘もあるが、それも含めた実に緻密なトラックメイクも本作の聴きどころでもある。また高速の4つ打ちを基調とした昨今のクラブミュージック的なアプローチというのも『GQuuuuuuX』の音楽世界観にピタリとシンクロしている。

【ネタバレ注意】『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)-Beginning-』Promotion Reel

 こうして各楽曲を聴いてみると、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の音楽は『水星の魔女』の頃以上に現在のJ-POPシーン、いわばネット発の音楽と接近したものとなっている。改めて最新の『ガンダム』の音楽は、J-POPの“イマ”を象徴するものとなっているのだ。しかし、およそ90分にも満たない先行劇場版は、あくまでも『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の一端でしかないし、音楽もまた現在聴かれるものだけで判断できるものでもないだろう。ここで鳴らされた音たちが、今はまだ聴くことのできない音たちと共にどんな効果を『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』にもたらすのか。その答えは2025年4月8日に待っているかもしれない。

参照
https://realsound.jp/2025/01/post-1908956.html

■放送情報
『機動戦士 Gundam GQuuuuuuX』
日本テレビ系にて、4月8日(火)スタート 毎週火曜24:29〜放送

■公開情報
劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』
劇場上映中
キャスト:黒沢ともよ、石川由依、土屋神葉
制作:スタジオカラー/サンライズ
原作:矢立肇、富野由悠季
監督:鶴巻和哉
シリーズ構成:榎戸洋司
脚本:榎戸洋司、庵野秀明
キャラクターデザイン:竹
メカニカルデザイン:山下いくと
アニメーションキャラクターデザイン・キャラクター総作画監督:池田由美、小堀史絵
アニメーションメカニカルデザイン・メカニカル総作画監督:金世俊
デザインワークス:渭原敏明、前田真宏、阿部慎吾、松原秀典、射尾卓弥、井関修一、高倉武史、絵を描くPETER、網、mebae、稲田航、ミズノシンヤ、大村祐介、出渕裕、増田朋子、林絢雯、庵野秀明、鶴巻和哉
美術設定:加藤浩(ととにゃん)
コンセプトアート:上田創
画コンテ:鶴巻和哉、庵野秀明、前田真宏、谷田部透湖
演出:鶴巻和哉、小松田大全、谷田部透湖
キャラクター作画監督:松原秀典、中村真由美、井関修一
メカニカル作画監督:阿部慎吾、浅野 元
ディティールワークス:渭原敏明、田中達也、前田真宏
動画検査:村田康人
デジタル動画検査:彼末真由子(スタジオエイトカラーズ)、三浦綾華、中野江美
色彩設計:井上あきこ(Wish)
色指定・検査:久島早映子(Wish)、岡本ひろみ(Wish)
特殊効果:イノイエシン
美術監督:加藤浩(ととにゃん)
美術監督補佐:後藤千尋(ととにゃん)
CGI監督:鈴木貴志
CGIアニメーションディレクター:岩里昌則、森本シグマ
CGIモデリングディレクター:若月薪太郎、楠戸亮介
CGIテクニカルディレクター:熊谷春助
CGIアートディレクター:小林浩康
グラフィックデザインディレクター:座間香代子
ビジュアルデベロップメントディレクター:千合洋輔
撮影監督:塩川智幸(T2 studio)
撮影アドバイザー:福士享(T2 studio)
特技監督:矢辺洋章
ルックデベロップメント:平林奈々恵、三木陽子
編集:辻󠄀田恵美
音楽:照井順政、蓮尾理之
音響監督:山田陽(サウンドチーム・ドンファン)
音響効果:山谷尚人(サウンドボックス)
主・プロデューサー:杉谷勇樹
エグゼクティブ・プロデューサー:小形尚弘
プロデューサー:笠井圭介
制作デスク・設定制作:田中隼人
デジタル制作デスク:藤原滉平
配給:東宝/バンダイナムコフィルムワークス
宣伝:バンダイナムコフィルムワークス/松竹/スタジオカラー/日本テレビ放送網/東宝
製作:バンダイナムコフィルムワークス
©︎創通・サンライズ
公式サイト:https://www.gundam.info/feature/gquuuuuux/
公式X(旧Twitter):@G_GQuuuuuuX

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