アカデミー賞はいつから“国際化”したのか? 非英語作品の地位の変化を振り返る

アカデミー賞の改革 明らかな潮流の変化
ところが転機が訪れる。
2014年度、2015年度のアカデミー賞は2年連続で演技部門の候補20人全員が白人だった。「白すぎるオスカー」が波紋を呼んだ2016年に、映画芸術科学アカデミーは「多様性」をテーマに掲げ、有色人種と女性の会員数を2020年までにそれぞれ2倍にすることを目標にした変革を発表した。公約は果たされ、2020年6月の新メンバー追加でこの目標をクリアしている。結果として投票権を持つアカデミー会員は多国籍化が進行し、現在では会員の総数のうち56%がアメリカ国外の出身者である。
変化は改革初年度となった2016年度に早くも見られる。ゲイの黒人を主人公にした『ムーンライト』(2016年)が作品賞を受賞し、助演男優賞、助演女優賞は黒人俳優のマハーシャラ・アリとヴィオラ・デイヴィスが受賞した。2017年度は黒人青年が主人公の『ゲット・アウト』(2017年)が作品、監督、脚本、主演男優賞を争い、脚本賞を受賞した。
翌年の2018年度はメキシコが舞台で全編スペイン語の『ROMA/ローマ』(2018年)が作品賞候補になり、アルフォンソ・キュアロンが2度目の監督賞を受賞。以後、今年(2024年度)に至るまで、7年連続で非英語作品が作品賞候補入りしている。
・第91回(2018年度)『ROMA/ローマ』(スペイン語)が作品賞候補入り、監督賞受賞。
・第92回(2019年度)『パラサイト 半地下の家族』(韓国語)が作品、監督、脚本賞を受賞。
・第93回(2020年度)『ミナリ』(韓国語)が作品賞候補入り、助演女優賞(ユン・ヨジョン)を受賞。
・第94回(2021年度)『ドライブ・マイ・カー』(日本語)が作品賞、監督賞、脚色賞の主要3部門で候補入り。
・第95回(2022年度)『西部戦線異状なし』(ドイツ語)が作品賞、脚色賞の候補入り。
・第96回(2023年度)『落下の解剖学』(フランス語、英語)が作品賞、監督賞、主演女優賞で候補入りし、脚本賞を受賞。『関心領域』(ドイツ語)が作品賞、監督賞、脚色賞で候補入り。
・第97回(2024年度)『エミリア・ペレス』(スペイン語)が作品賞を含む最多となる12部門13ノミネートを獲得、『アイム・スティル・ヒア』(ポルトガル語)が作品賞、主演女優賞で候補入り。
記録を改めて振り返ると、1928年度~2017年度まで90回発表されたアカデミー賞で非英語の作品賞候補は9本。2018年度以降は7年間で9本である。第82回(2009年度)でノミネートが一気に10作へと拡大され、候補入りしやすくなった事情もあるが、2009年度から2017年度まで作品賞候補入りした非英語作品は『愛、アムール』の一本しかない。
その他、『COLD WAR あの歌、2つの心』(2018年)でパヴェウ・パヴリコフスキ、デンマーク映画『アナザーラウンド』(2020年)でトマス・ヴィンターベアが監督賞候補入りするなど、作品賞候補入りできずとも他の主要部門を非英語作品が争う例が珍しくなくなっている。この結果に「アカデミーの改革と因果関係はなく、偶然」と言うのは難しい。変化は明白であり、映画芸術科学アカデミーの改革が如実に影響した因果関係と言っていいだろう。
『大いなる幻影』をはじめ、それまでの作品賞候補入りした非英語作品はほとんどヨーロッパ映画だったが、ヨーロッパ以外の作品も増えた。『グリーン・デスティニー』がヨーロッパ映画以外では初の作品賞候補入りだったが、2018年度~2024年度までのわずか7年の間に韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』、アメリカ資本ではあるが韓国語主体の『ミナリ』、日本映画の『ドライブ・マイ・カー』の3本が作品賞候補入りしている。また、メキシコ、ブラジルなどラテンアメリカ諸国の作品も候補入りを果たしている。「多様性」をテーマに掲げたアカデミー賞改革の結果と見るべきだろう。

授賞式を目前にして、主演女優賞候補入りしていたカーラ・ソフィア・ガスコンが過去の人種差別発言で炎上している。元々受賞の最有力候補とは言い難かったが、「多様性」を掲げる今の米映画界はこういった発言を決して許さない。彼女が受賞する可能性は消えたと見ていいだろう。
「多様性」を重視する風潮は今後も継続し、結果として賞の国際化も継続した傾向となることだろう。日本で日本語の映画を製作してアカデミー賞を受賞する可能性も、今ならば十分にあると言えそうだ。「世界のクロサワ」も達成できなかった快挙を日本人が達成する日はそう遠くないかもしれない。





















