ニコラス・ケイジの新たなネットミーム誕生か 狂気が光る『シンパシー・フォー・ザ・デビル』

予告編でも映し出されているが、ケイジの演じる男が明らかにまともじゃない。本編ではそんなカージャック犯と、捕まってしまったデイビッドの狂気的なドライブが約90分にわたって描かれる。主要な登場人物は2名で、シチュエーションも大半が車内のため、展開が少ない。しかも片方は発言が支離滅裂な狂人で、言葉のキャッチボールも成立せず、真っ当な会話劇にもなり得ない。下手に作ると冗長な作品になってしまいそうだが、常に目線はスクリーンに釘付けになり、あっという間にエンドロールを迎えた。
少ない展開の中でも飽きさせないのは脚本や演出の妙もあるが、何よりも役者の存在が大きかった。インターネット上では「おもしろミームおじさん」という印象が定着してしまったケイジだが、さすが映画界に名を轟かせるコッポラファミリーの一員にして、アカデミー賞俳優だ。イカれた男をただ過激なだけでなく、時に暴れ、時に歌い踊り、時に変顔を作り、一挙手一投足が非常に気になるユニークな存在として演じあげた。本人はミーム化されることを快く思っていないようだが、この怪演のせいで残念ながらまたネットのおもちゃにされてしまうだろう。(※)

共演のジョエル・キナマンも、狂人に絡まれたデイビッド役を見事に務めている。このデイビッド自身も、可哀想なカージャック被害者でありながら、実は謎の多い人物。職業について「海運会社で在庫の管理をしている」と答えているが、道中でただの会社員とは思えない行動力をみせる瞬間も。一般男性の中に秘められた“何か”を感じさせ、それがまたスクリーンから目が離せない重要な要素になっている。

ドライブが進む中で謎の男は、とある話をはじめる。要領を得ない会話の中で、デイビッドに対して「お前は“あの男”だ」という。デイビッドが人違いだといくら言っても耳を貸さない。男が語る話は真実なのか、妄想なのか。“あの男”とは誰なのか、ただの人違いなのか。デイビッドがカージャックに遭ったのは偶然なのか、必然なのか。そして、2人のドライブの先に待ち受ける結末とは。
本編が終わり、エンドロールを眺めながら私は「ああ、“まともに会話が通じない奴”のほかにも怖いものってあったな」と思った。
【写真】“ネットミーム化”待ったなしか? ニコラス・ケイジの怪演が光るシーンの数々
参照
https://jp.ign.com/dream-scenario/71669/news/
■公開情報
『シンパシー・フォー・ザ・デビル』
TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開中
監督・脚本:ユヴァル・アドラー
出演:ニコラス・ケイジ、ジョエル・キナマン
配給:AMGエンタテインメント
2023年/アメリカ/英語/90分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/原題:Sympathy for The Devil
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公式サイト:https://sympathy-devil.jp






















