まるで『ヴィンチェンツォ』? 『ボゴタ:彷徨いの地』ソン・ジュンギの華と魅力を再確認

ここからは少し残念に思っているところを記したい。本作は、エンドクレジットを省くと正味1時間40分ほどで描かれるのだが、底辺から成りあがっていくさまを描くには、すこし尺が足りないようで、キャラクターの心情が台詞で表現されてしまっている。そこに関して、演技力のある俳優陣なのにもったいないと思ってしまった。前半の期待から後半のサラッとした感じに、お味噌汁の上澄み液だけを飲んだような物足りなさを感じたところがある。ソン・ジュンギもイ・ヒジュンも深みのある心象風景を十二分に演じられる俳優たちなので、もっと濃く描いてもいい。鋭さと熱さを併せ持ち、人間味もあり、セクシーさも持つ実力派俳優イ・ヒジュンと、ソン・ジュンギ演じるクッキの心の深い葛藤の心理描写を描くことができれば、本作は内容的に見応えが増し、成り上がりものとして名を残せたのではないかと惜しく感じる。コロンビアという海外ロケでの風景や映像描写も活かしつつ、クッキの心の変化を深堀りする時間が加味されたら、6話ほどのドラマでも成立するほどの俳優たちなのだから。
中でも、主演のソン・ジュンギは、10代のクッキから成長していく中で、純粋無垢な青年から、心にも見た目にも垢がついていくように薄汚れていく姿を見せ、これまで演じたキャラクターたちの姿が垣間見えるようでもあった。さらに、本作では珍しいアクセサリーをつける姿を披露しており、ピアス姿も新鮮だ。しかし、イ・ヒジュンやクォン・ヘヒョ、パク・ジファンら周囲のアクの強い俳優たちとソン・ジュンギの薄汚れた姿は、一線を画す。顔を汚しても、髪を無造作にしても、ソン・ジュンギが持つ品の良さはどうにも消えないのが、彼の最大の持ち味だろう。ギラギラ感が足りないとも言えるし、それが彼の良さでもある。このままサラッとしたままでいてもらいたいという気がするのは、筆者だけではないだろう。
ソン・ジュンギが『ヴィンチェンツォ』や『財閥家の末息子~Reborn Rich~』で見せた無双感は、本作でも神々しく発揮されている。クッキが上り詰めていく中で、クッキとして、辛酸をなめながら、動じない大人の男として闇社会でスマートさを身につけていくさまは、ヴィンチェンツォ・カサノのパラレルワールドのよう。プリクエル(前日譚)のような無双感に思わず安心し、そしてときめきを感じ、それでこそ無双ソン・ジュンギと嬉しくなる。ソン・ジュンギは、最近の作品では、闇社会や汚れ役のような苦しい環境にいるキャラクターを立て続けに演じている。彼の定評ある演技力の幅をさらに拡げる新しい挑戦として、「ソン・ジュンギ主演作品だから観る」という層を共に成熟させてきたように感じる。ソン・ジュンギが挑戦する姿を見て、何か言葉にできないものが心に残る人もいるだろう。一方で、単純明快なカッコいいキャラで胸をときめかせる役からの脱皮をはかっているのかもしれないが、無条件にカッコいいだけのキャラクターもまだまだ観たい。“オジサン”パーツが全くない彼も、いずれイケオジジャンルに進むこともあるのだろうか。Netflixで10月に配信されるドラマ『匿名の恋人たち』へのカメオ出演も決定しているソン・ジュンギ。今後の挑戦も楽しみにしている。
■配信情報
『ボゴタ:彷徨いの地』
Netflixにて配信中
出演:ソン・ジュンギ、クォン・ヘヒョ、イ・ヒジュン
制作:キム・ソンジェ






















