『ロ・ギワン』ソン・ジュンギが脱北者の過酷な生活を体現 133分に詰め込まれた社会問題

『ロ・ギワン』ソン・ジュンギが脱北者を熱演

 ソン・ジュンギ主演のNetflix映画『ロ・ギワン』が、3月1日より配信中だ。配信公開の翌日には、日本の「今日の映画TOP10」で初登場5位にランクイン、韓国では堂々の1位となり、世界的にも注目を集めている。

 本作は、ソン・ジュンギが演じる北朝鮮の青年、ロ・ギワンを主人公とし、彼が脱北してからの「壮絶な軌跡」をロマンスを絡めて描いた作品だ。

 ソン・ジュンギは、華やかなルックスと確かな演技力で、数々のヒット作品に恵まれてきた。デビュー前の学生時代から、他校の生徒が見に来るほど人気だった彼は、大学在学中の2008年に映画『霜花店 運命、その愛』でデビュー。その後、パク・ボヨンと共演した2012年の映画『私のオオカミ少年』に出演して大ブレイクを果たす。『私のオオカミ少年』では、本物の獣のように鋭く光る眼差しや、言葉も話せず、狼のように行動するソン・ジュンギの演技が絶賛された。

 ソン・ジュンギといえば、『トキメキ☆成均館スキャンダル』では、酒好き、女好き、遊び好きの、大金持ちの道楽息子ク・ヨンハ、『太陽の末裔 Love Under The Sun』では世の女性をメロメロにした特殊戦司令部大尉のユ・シジン、『ヴィンチェンツォ』では華麗で残酷なマフィア、ヴィンチェンツォ・カサノと、数々の人気キャラクターを世に送り出してきた。全ての役とのシンクロ率に、彼の演技力の高さが表れている。『アスダル年代記』での一人二役や、『財閥家の末息子〜Reborn Rich〜』での演技も秀抜だ。ソン・ジュンギは、その他にも挙げきれないほどの作品に出演しているが、そのどれもが、「ソン・ジュンギ」という名前の持つ力で観るものを惹きつけ、その演技力で観るものを酔わせる力を持った俳優だ。

 その彼が、華麗な衣装もメイクもなく、北朝鮮から脱北してきた青年ロ・ギワンを体当たり演技で演じたのが『ロ・ギワン』だ。ロ・ギワンは、ケンカの仲裁をしたことから北朝鮮を追われる身となり、生きるために中国を経てベルギーへと脱出する。その過程で、愛する母との別れを体験する。物語の前半では、ロ・ギワンが命からがらベルギーへと逃げ出すまでと、ベルギー到着後の残酷な現実描写が続き、胸が重く、暗く、痛む展開が続く。

 追われるロ・ギワンを生かすために、母オクヒ(キム・ソンリョン)の取った行動が、結果的にロ・ギワンを身を切るような辛さへと突き落とす。彼が、誰もいなくなった路上でひとり、血痕をお湯で洗い流す場面では、愛する者の血が排水溝に流れ込むのを止めようと必死に手で塞ごうとし、慟哭するロ・ギワンの姿に、胸が痛くてたまらなくなった。ロ・ギワンがなんとか手で掬い取ろうとするそれは、愛する者そのものだからだ。短いシーンだが、ロ・ギワンの心情を演出するシーンとして見逃してほしくない場面である。

 その後、ベルギーに渡り一安心かと思いきや、難民申請がスムーズにいかないという展開に陥る。ヨーロッパが抱える難民問題を、映画を通して我々が知る瞬間だ。難民のフリをした“偽難民”ではないことを申請して、認められなければならないという壁が立ちはだかる。その申請が通り、許可が下りるまでは、ロ・ギワンには住むところも食べるものもない。

 ロ・ギワンは、大金を持ってベルギーにやってきているのだが、これは母の遺体を叔父のウンチョル(ソ・ヒョヌ)が闇で臓器売買した金だということが暗に描かれる。難民認定の壁、臓器売買、さらにはロ・ギワンがのちに出会う女性マリ(チェ・ソンウン)の母チョンジュ(イ・イルファ)の安楽死問題と、本作では様々な社会問題が描かれる。ひとつひとつのテーマ自体が重く、2時間半では収まりきらないほどの内容だ。

 ロ・ギワンが、大金を持ちながらも使えない心情が、さきの母との別れと繋がっている。そんなロ・ギワンの財布を盗むのがマリだ。マリを演じるのは、『アンナラスマナラ -魔法の旋律-』のチェ・ソンウン。マリは、病気の母チョンジュを、自分が留守の間に安楽死させた父ユンソン(チョ・ハンチョル)を恨み、身を落として、マフィア組織と繋がっていた。ロ・ギワンから財布を盗んだマリは、その財布とお金がギワンにとって大切なものだと知り、返すことにする。マリとの出会いで、ギワンに寝床と食料と仕事が与えられ、命の危機から脱出できて、束の間ホッとする。

 難民申請の裁判を抱えるロ・ギワンと、母の死がきっかけで闇の世界に落ちたマリ、「母親」という共通の傷を持つふたりは、どんどん惹かれ合っていく。しかし、マリが足を踏み入れたマフィアの世界は、やがてマリを窮地に追い詰めていく。マリの置かれた環境を知ったロ・ギワンは、自分も裁判中の身でありながら、マリを助けようと奮闘する。

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