映画『ベルサイユのばら』オスカルのキャラはなぜ変更された? 旧作との違いが示す現代性

『ベルサイユのばら』オスカルの変更点

オスカルが現代に蘇る意義

 本作で取り上げられるフランス革命は、民主主義誕生の歴史的出来事として、人類史の中でも重要なものだ。粛清が吹き荒れた内実など矛盾と混乱に満ちたこの革命は、富をむさぼる貴族階級に対する、市民の不満が大きな原動力となっている。テレビアニメ版は、この点を原作以上に厚く描いており、主要キャラクターであるアンドレの、平民としてのエピソードも盛り込まれている。

 原作者の池田は大学生時代、学生運動に明け暮れた経験を持つが、1979年から放送されたテレビアニメ版は、運動敗北後の時代の空気を反映してか、革命の負の側面も強調している。民主主義とは何か、暴力を伴う革命とは何かを問う、時代を反映した内容となっているとも解釈できる。時代のうねりというものが大きなものだという実感があるから、テレビアニメ版のオスカルもまた、それに翻弄されるという側面が描かれていると思える。

 その意味で、オスカルという個人にフォーカスした新劇場版は、テレビアニメ版に見られる社会を見つめる目線は後退したという見方はあるかもしれない。

 では、新劇場版は社会的に意義ある作品でないのかと言えば、そうではないと筆者は考えている。

 オスカルという傑出したキャラクターを現代に蘇らせることには、現代社会にとって大きな意義がある。オスカルが原作マンガにおいて体現していたものが何だったのかを考える必要がある。不自由を強いる運命と対峙し、指先1本髪の毛1本に至るまで自由を信じ、自らの意思で進む道を選び取る人物だ。それは社会の中で不自由を強いられる女性にとって、連載当時どれほどまぶしいものだっただろうか。そして、それは今なお現代にも必要とされるのではないか。

 生まれの運命とは何か、性とは何かを超えて、人は自由であるべきと信じて殉じるオスカル。新劇場版はそこにフォーカスすることによって、人は誰かに従属する存在ではないのだと、力強く伝える作品になっている。

 池田理代子がオスカルを生み出してから50年以上が経過しても、このキャラクターの輝きは失われていないと新劇場版は証明している。ジェンダーをはじめ様々な不平等が世界中に残るなか、あらゆる理不尽を乗り越えようと戦うオスカルの姿は、現代人にとって、その存在自体が鮮烈な意味がある。翻弄された悲劇の人物ではなく、悔いなく生き抜いた人物として蘇ったオスカルの姿は、2025年に必要とされるロールモデルとなれるはずだ。

■公開情報
『ベルサイユのばら』
全国公開中
キャスト:沢城みゆき(オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ役)、平野綾(マリー・アントワネット役)、豊永利行(アンドレ・グランディエ役)、加藤和樹(ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン役)、武内駿輔(アラン・ド・ソワソン役)、江口拓也(フローリアン・ド・ジェローデル役)、入野自由(ベルナール・シャトレ役)、落合福嗣(ルイ16世役)、銀河万丈(ジャルジェ将軍役)、田中真弓(マロン・グラッセ・モンブラン役)
ナレーション:黒木瞳
主題歌:絢香「Versailles -ベルサイユ-」
原作:池田理代子(集英社『マーガレット・コミックス』刊)
監督:吉村愛
脚本:金春智子
キャラクターデザイン:岡真里子
音楽プロデューサー:澤野弘之
音楽:澤野弘之、KOHTA YAMAMOTO
アニメーション制作:MAPPA
配給:TOHO NEXT、エイベックス・ピクチャーズ
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
製作:劇場アニメベルサイユのばら製作委員会
©︎池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
公式サイト:https://verbara-movie.jp/
公式X(旧Twitter):@verbara_movie
公式Instagram:@verbara_movie
公式YouTube:https://www.youtube.com/@verbara-movie/

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