『おむすび』の“母親”は今までの朝ドラと何が違う? “愛子”麻生久美子の描き方を考える

もともと、愛子は自分のやりたいことを考える間もなく夫の仕事を一緒にやってきたからブログが唯一、自己表現になってやりがいを感じていたが、はじめて都会の出版社のなかに足を踏み入れ、社会を見たと気分高揚する姿はちょっといい話だと筆者は感じた。おそらく、世の中にはそういう人(主に女性かもしれない)たちがたくさんいるのだろう。

SNSの発達は社会に出ることなく家庭に入っていた女性に可能性を拓いた。ほんとかどうかわからないが「主婦」が絵を描いたり、気の利いた140文字を書いたりして、それがプロ顔負けのクオリティでたくさんのフォロワーがつき、書いたものが出版化されるケースが増えた。才能があるのに家に入っていた人がこんなにもいることがSNSで可視化されたのだ。愛子もそういうSNS時代の象徴として描かれるのかと思ったら、彼女はあっさりブログをやめてしまう。ブログの支持者が増えると同時にネガティブな書き込みも増えたからだと言う。もしかしたら愛子はここへ来て、娘たちのことをネタにしてそれが社会に無責任に拡散されてしまうことに躊躇したのかもしれない。「自分のことより自分の子どものことが何より大切なんや」と結が麻利絵に言えたのは、母と語り合ったおかげかもしれない。
物語がSNS礼賛にいかなかったこと、家の外に出なくても尊いことを、愛子を通して描いたことは『おむすび』の面白さのひとつであろう。こうなるかなと思ったことはことこどく外していくのが『おむすび』。震災や怪我や詐欺と、思いがけない災難に遭って、人生ままならない人たちの話をそのまま描いたら、とてつもなくしょんぼりした話になるところを、そうは見せずに登場人物を追い詰めず、できるだけ軽やかに描いている。作り手の苦労が忍ばれる。次週、聖人に思いがけない病の影が忍び寄ってきそうだが、大事に至らないことを祈る。
■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、宮崎美子、松平健、佐野勇斗、菅生新樹、松本怜生、中村守里、みりちゃむ、谷藤海咲、岡本夏美、田村芽実ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK






















