『チ。』が紡いできた“感動”の系譜とは? “リアリスト”ドゥラカが向き合う地動説の継承

オクジーとバデーニも、前述のラファウと同じく、遠い空を見上げたまま、首を吊られる。この物語の主人公たちは、みんな笑って死んでいく。彼らだけではなく、第1部でラファウに託したフベルトも、第2部でオクジーに託した異端者やグラスも、みんな笑って死んでいった。
異端者の手紙には、「もしこの発見のせいで私が死んだとしても、この発見のおかげで私は幸福な命だったと断言できる」と書かれていた。グラスは死の間際、「私が死んでもこの世界は続く。だったらそこに何かを託せる。それが喪失まみれのこの世界から生れたある種の、希望だ」と言い残した。
「殉死」という考えを、美化することは危険だ。だが、自らの選択に一片の悔いを抱かず、笑って死んでいける彼らを、やはりうらやましく思う。それだけの感動に出会えたのなら、たとえ最期が処刑であっても、幸せな人生なのだと思う。

そして、いよいよ今放送中の第3部。3人目の主人公・ドゥラカは、貧しい移動民族の少女である。彼女もある偶然から、運命的に地動説に出会う。だが彼女が地動説に抱いた感情は、感動ではない。「この本で大稼ぎできる、かも」である。ここまで何十年にわたる壮大な感動の系譜を紡いでおきながら、ここに来て突然、『忍たま乱太郎』のきり丸みたいな主人公が出てきた。
だが安心してほしい。感動の系譜は、途切れない。第2部で生き延びたヨレンタが、異端解放戦線の組織長となり、再登場する。「迫害され続けた異端者たちのレジスタンス」は、いつか描かれるのではと思ってはいた。だが、あのいたいけな少女だったヨレンタが、ジャンヌ・ダルクのような女闘士となっていたことには、驚かされた。
あれだけ仲睦まじい親子だったヨレンタとノヴァクは、25年の時を経て、敵同士となり、どのような再会を果たすのか。リアリストであるドゥラカは、ラファウやオクジーたちのような感動に出会うことができるのか。オクジーの書いた『地球の運動について』は、果たして出版されるのか。そして、この壮大な物語は、いつかコペルニクスの『天球の回転について』に繋がるのか──。
■放送情報
TVアニメ『チ。―地球の運動について―』
NHK総合にて、毎週土曜23:45~放送
Netflix、ABEMAにて、各話放送終了後配信
キャスト:坂本真綾(ラファウ役)、津田健次郎(ノヴァク役)、速水奨(フベルト役)、小西克幸(オクジー役)、中村悠一(バデーニ役)、仁見紗綾(ヨレンタ役)
原作:魚豊『チ。 -地球の運動について-』(小学館『ビッグスピリッツコミックス』刊)
監督:清水健一
シリーズ構成:入江信吾
キャラクターデザイン:筱雅律
音楽:牛尾憲輔
音響監督:小泉紀介
オープニング曲・主題歌:サカナクション「怪獣」
エンディング曲:ヨルシカ「アポリア」
アニメーション制作:マッドハウス
©魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について—製作委員会
公式サイト:anime-chi.jp
公式X(旧Twitter):@chikyu_chi






















