“朝ドラ常連”辻凪子、『おむすび』でなぜ“協調性ゼロの変人”役? 制作陣の狙いを読み解く

辻凪子、『おむすび』でなぜ協調性ゼロ役?

 辻本人もコメントで「協調性ゼロの変人薬剤師」と篠宮の設定について述べているが、この「協調性ゼロ」というものを演じ手がどう捉えるかでキャラクターの印象は大きく変わってくる。たとえばセリフの言い方ひとつにしたって、無口で他者を排除するようなものや、自己主張ばかりして孤立するものなど、いろいろあるだろう。しかし辻が体現する「協調性ゼロ」のキャラクターは、こういったネガティブなものではない。低いトーンでボソボソと話すが、その声は静かに「NST」のメンバーに届いているし、私たち視聴者にも正確に伝わっているのだから。(※)

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 辻が生み出した「協調性ゼロ」の篠宮は、先述しているように純粋に生真面目なだけなのだ。薬を扱うプロとしての美学と哲学と誇りを持っている人物であるがゆえに、チームの中で浮いて見えるのだろう。つねに彼女がメンバーたちと行動をともにしていることなどからは「NST」へのリスペクトが感じられるし(これは作劇上そうなっているだけだろうが)、その際に背筋がピンと真っ直ぐ伸びているあたりに、篠宮の性格が垣間見えたりもする。これらはもちろん、辻の演技によって実現しているものだ。安定感のある技巧派である。

 とはいえ、辻がこのようなキャラクターを演じることに驚いたのも事実。『おむすび』は基本的に陽気な作品であり、辻もポップなキャラクターを演じるものだとばかり思っていたからだ。ちょうど1年前に彼女は『ブギウギ』(2023年度後期年)で有楽町の夜の女たちのひとりを演じていた。最初のうちはヒロインのスズ子(趣里)に突っかかる硬派な人物だったが、和解してからはガラリと印象が変わったものだ。辻はエネルギッシュな役どころによくハマる。しかし、8度目の朝ドラ出演にして主人公と深く関わるポジションなのに、彼女が任されたのは「協調性ゼロ」のクセの強い変わり者。これは制作陣が辻の演技者としての幅の広さを理解しているからこそなのだろう。

 ここ数年の彼女は年に1度のペースで小劇場の舞台に立っていて、ほろびて『苗をうえる』(2022年)、コンプソンズ『愛について語るときは静かにしてくれ』(2023年)、東京にこにこちゃん『ネバーエンディング・コミックス』(2024年)と、ときに軽妙に、ときに力強く、いずれも素晴らしいパフォーマンスで観客の胸を熱くさせてきた。俳優の真の力量を知るには、ナマモノである演劇にかぎる。彼女の次の舞台への出演がいつになるのかは分からないが、もしも『おむすび』で演技者・辻凪子が気になった方は、ぜひ劇場でその真価を味わってほしい。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/01/post-1904265.html

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、北村有起哉、麻生久美子、佐野勇斗、濱田マリ、中村アン、犬飼貴丈
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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