大泉洋、『室町無頼』は新たな代表作に 演技の振れ幅の中にある“豊かなグラデーション”

これまで数々のエンターテインメント作品で日本中に笑いと感動を提供してきた俳優・大泉洋。現代劇から時代劇まで、そして、コメディ、ミステリー、ヒューマンドラマにと、まさに何でもござれの演技者だ。そんな彼が主演を務めた映画『室町無頼』には、私たちの誰もが知る大泉洋の姿と、まだ誰も知らなかった大泉洋の姿が刻まれているように感じる。そう、ここに彼の新たな代表作が誕生したように思うのである。
本作は、作家・垣根涼介による歴史小説『室町無頼』を原作としたアクション時代劇だ。物語の舞台は室町時代の京都。大飢饉と疫禍により町には無数の亡骸が溢れ、甚だしい格差社会が生まれている時代である。そんな世であっても権力者たちは享楽にふけり、大衆の不満や怒りは募るばかり。そこへ颯爽と現れるのが、大泉が演じる蓮田兵衛である。

この兵衛とは、牢人にして剣の達人。非常に頭がキレる知的な人物でもあるが、そのいっぽう、無用だと思えば関所に火をつけ、傍若無人な振る舞いをする役人などは斬って捨てる無頼漢だ。やがて彼は武士の階級にありながら、蔑まされてきた者たちとともに盛大な一揆を起こし、命懸けで幕府に挑んでいくことになるのである。
物語や蓮田兵衛というキャラクターの設定に触れただけだと、これを大泉が演じるというのには少しばかり驚いた。どうやらこの人物は、いわゆるダークヒーローではないか。大泉について“何でもござれの演技者”だと冒頭に記したものの、役と本人とのイメージがうまく重ならない。大泉が大衆の中心に立っている姿は容易にイメージできるが、それらをダークヒーローとして率いるとなると、話は変わってくる。これについてはあとでふと気がついたのだが、大泉が激しく剣を振るっているところを見たことがなかったからなのだろう。実際のところ本格的な殺陣への挑戦はこれがはじめてらしいのだ。

しかし、彼の一太刀を目にした瞬間、「兵衛を演じられるのは大泉洋だけではないか」と思った。その太刀筋からは、いかに兵衛が優れた剣の使い手であるかが分かる。相当な稽古を重ね、殺陣をものにしたのではないだろうか。刀は完全に兵衛の身体の一部となり、京の都の闇を切り裂こうとしている。みなぎる気迫、しなやかな身のこなし。純粋にカッコいい。これを目の当たりにした私たち観客の誰もが、“大泉洋=蓮田兵衛”のことを信じて疑わないだろう。意を決して立ち上がった大衆と同じように。
それでいて兵衛は、飄々としていて、掴みどころのない男でもある。無頼漢とはいえ、弱きを助け強きをくじく人物だが、しかしとはいえ無頼漢は無頼漢なのだ。彼が次に何をしでかすのか分からない。これは作劇上そうなっているわけだが、どんな俳優がどのように演じるのかで、兵衛の印象は、ひいては『室町無頼』に対する印象は、大きく変わってくるだろう。




















