大泉洋、『室町無頼』は新たな代表作に 演技の振れ幅の中にある“豊かなグラデーション”

大泉洋が『室町無頼』に刻んだ“演技者の力”

 繰り返すのはこれで最後にするが、大泉は“何でもござれの演技者”である。ここ数年の彼の出演作に絞っていえば、腹の底が見えないキャラクターは『騙し絵の牙』(2021年)で演じているし、『月の満ち欠け』(2022年)や『ディア・ファミリー』(2024年)では人情味あふれる人物を、そして、魅力的なダメ男を演じた『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』(2020年)はコメディ作品だった。大泉の演技の振れ幅は、じつに大きい。それでいてその幅の中には豊かなグラデーションがある。“人情味あふれる人物”と一口に言っても、作品が違えば演じるキャラクターもまったく異なるのだから当然のこと。そしてもちろん、各キャラクターにだってグラデーションがあるというものだ。

『ディア・ファミリー』©2024「ディア・ファミリー」製作委員会

 兵衛というキャラクターに関してもそうで、彼は剣の達人として人々を率いているわけではない。劇中には滑稽なシーンも用意されており、そこで大泉がコミカルな演技を展開することで、私たちは兵衛に対して親近感を抱くことになる。それはひるがえって考えてみると、命を賭して彼についていく大衆たちも同じなのではないだろうか。大泉と兵衛の姿が重なり、私たち観客と劇中の大衆の存在が重なるーー俳優・大泉洋の新たな代表作だと断言できるだろう。

■公開情報
『室町無頼』
全国公開中
出演:大泉洋、長尾謙杜、松本若菜、遠藤雄弥、前野朋哉、阿見201、般若、武田梨奈、水澤紳吾、岩永丞威、吉本実憂、土平ドンペイ、稲荷卓央、芹澤興人、中村蒼、矢島健一、三宅弘城、柄本明、北村一輝、堤真一
監督・脚本:入江悠
原作:垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊)
配給:東映
©2016 垣根涼介/新潮社 ©2025『室町無頼』製作委員会
公式サイト:https://muromachi-outsiders.jp/

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