『べらぼう』は人生に“物語”が必要な理由を教えてくれる 唐丸との別れと蔦重の新たな決意

唐丸は、きっと両親のもとに帰って今ごろいい暮らしをしている。そう、蔦重とともに朝顔にかわいがられた花の井(小芝風花)の想像に、観ているこちらまで少し救われる気がした。人生に物語が必要なのはこういうことなのかとも思わせられる場面だった。同時に、ふさぎ込みながらも、「いやもっと……」なんて想像が膨らむところに、蔦重の天賦の才能を感じる。

もっと面白く。もっと楽しく。ここから蔦重が江戸のメディアを変えていく、その原動力はこうして理不尽で苦しくて辛かった日々があってこそなのだろう。新参者として版元仲間に入れてもらえなかったことも、その糧のひとつ。とはいえ、まだ今の蔦重にはまだ源内のように孤軍奮闘するスキルも自信もない。そこで、鱗形屋(片岡愛之助)のお抱え改から始める決意をするのだった。
源内のぼやきもまた現代に通じるものがあって興味深い。今風に言えば脱サラ&フリーで活躍する源内は、自由を手に入れたぶん自分で動き続けなければならない厳しさを蔦重にこぼす。「自由に生きたい」とは、人間誰もが一度は願うもの。しかし、人生はそんなに単純ではない。守りたい大事なもののために人は仲間となる。しかし、そうしてつながればこそ人は縛られるし、しがらみから逃げようとすれば人は今度は孤独になる。都合のいい自由なんてない。だからこそ、その折り合いをつけながら、人は生きていくのだ。

いっそ国を開いて自由に競争をしたらいいのにと、源内と田沼意次(渡辺謙)が思いを馳せた未来に私たちはいる。誰もが職業を選択する自由を持ち、自分の人生を切り拓くことができるようになった私たちを見てなんと言うだろうか。このドラマを観て、多くの人がそう想像をした今日がまた未来を作っていくのかもしれない。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK






















