興収で読む北米映画トレンド
ロサンゼルスの山火事でハリウッドに再び試練 北米興収も不調の連休

伏兵だった『One of Them Days』に存在感を奪われたのが、ユニバーサル・ピクチャーズ製作のモンスター・ホラー映画『Wolf Man』だった。4日間で2000万ドル超えが期待されていたところ、蓋を開ければ1200万ドル規模なのだから、予想外の躓きである。
本作は『狼男』(1941年)の現代版リメイクだが、古典的ホラーのリメイク作といえば、『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1938年)をロバート・エガース監督が翻案した『Nosferatu(原題)』が大ヒットを記録中。同作は12月25日の北米公開だったため、1ヶ月間で類似企画が明暗を分けたのもつらいところだ。
しかし、本来は『Wolf Man』も『Nosferatu』と同じく尖った企画だった。当初は『ブルー・バレンタイン』(2010年)のライアン・ゴズリング主演、デレク・シアンフランス監督のタッグが就任していたが、2023年12月にストライキの影響でプロジェクトを離脱。代打として起用されたのが、主演のクリストファー・アボットと、『透明人間』(2020年)を成功させたリー・ワネル監督だったのだ。しかし、2人とも確かな実力者だが、これはもはや企画として別物。おまけに、製作期間も1年と短かった。
Rotten Tomatoesは批評家スコア52%・観客スコア58%、CinemaScoreでは「C-」と、ホラー映画は賛否両論になることが多いものの、いささか渋い成績だ。製作費は2500万ドルとこちらも抑え目だが、きちんとコストを回収できるかどうかが、ユニバーサルによるリメイク路線の今後にも影響を及ぼしうる。
トップ10以下は映画賞レースの有力株たちが群雄割拠の様相だ。第11位『ブルータリスト』、第13位のペドロ・アルモドバル監督『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』、第17位『Nickel Boys(原題)』も健闘するなか、いくつかの作品がすさまじい勢いを見せている。
第16位『セプテンバー5』は公開6週目にして101館追加し、計121館で週末興収36万ドル(前週の約6倍)。第18位『野生の島のロズ』は再び1000館規模の拡大上映に踏み切り、週末興収26万ドル(前週の約12倍)を記録した。主演のデミ・ムーアがアカデミー賞に食い込むのではと話題の『サブスタンス』は、公開18週目で470館を再び追加。北米481館で週末興収24万ドルと、こちらは前週の約18倍の数字となっている。
しかしながら、賞レースの大本命であるアカデミー賞のノミネート発表は、ロサンゼルスの山火事の影響を受けて1月23日まで延期された。“映画の街”ハリウッドを襲った自然災害のため、映画人たちは大きな混乱のさなかにあるのだ。
現地では大スターだけでなく、プロデューサーや制作スタッフを含めた多くの映画関係者が自宅を失い、撮影地が焼け、制作スケジュールにも影響を及ぼした。2020年からのコロナ禍、2023年の全米脚本家組合&全米映画俳優組合によるWストライキから、映画業界がなんとか復活に向けて漕ぎ出していたさなかの惨事だ。業界の縮小が続くなか、ハリウッドは3度目の打撃に耐えられるかの試練にさらされている。
北米メディアは、すでにいくつかの“悪い未来”を予測している。自宅を失ったスタッフたちがやむを得ず居場所を移したことで、映画・テレビの制作には数カ月間におよぶ影響が出るという。それが一時的なものならまだいいが、コロナ禍とストライキで人材が流出しはじめていたハリウッドでは、ただでさえ高い家賃がより高騰する可能性も高く、さらに多くの業界人がこの土地を去るのではないかと指摘されている。
また、映画界に期待していた投資家たちも今回の山火事でダメージを受けており、今後も継続的な投資に乗り出すかはわからない。予想外の時期にこれほど大規模な山火事が起きたことで、保険料が高くなり、スタジオの負担がより大きくなる可能性もあるという。
希望があるとすれば、映画やテレビシリーズの撮影に使用されるサウンドステージ(スタジオ)にダメージがなく、すでに多くのプロダクションが撮影を再開していること。また、ロサンゼルスでは映画・テレビを救済するため税額控除を大幅に増額する計画もあるという。「悲観的な見方は時期尚早かもしれない」とThe Hollywood Reporterは書いている。
山火事の影響はコロナ禍やストライキと同じく、またもや向こう2~3年間、場合によってはそれ以上の長期にわたる可能性がある。数年後の映画興行に影響が出ることも確かで、興行の規模がさらに小さくなれば、それは映画業界のさらなる縮小につながる。ロサンゼルス以外での制作に影響は少ないとみられるが、新年から状況は決して明るくない。
北米映画興行ランキング(1月17日~1月19日)
1.『One of Them Days(原題)』(初登場)
1160万ドル/2675館/累計1160万ドル/1週/ソニー
2.『ライオン・キング:ムファサ』(→前週2位)
1153万ドル(-18.9%)/3555館(-65館)/累計2億582万ドル/5週/ディズニー
3.『Wolf Man(原題)』(初登場)
1055万ドル/3354館/累計1055万ドル/1週/ユニバーサル
4.『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』(↓前週3位)
860万ドル(-24.3%)/3306館(-276館)/累計2億1649万ドル/5週/パラマウント
5.『Den of Thieves 2: Pantera(原題)』(↓前週1位)
660万ドル(-56.1%)/3008館(変動なし)/累計2617万ドル/2週/ライオンズゲート
6.『モアナと伝説の海2』(↓前週5位)
606万ドル(-7.2%)/2825館(-345館)/累計4億4279万ドル/8週/ディズニー
7.『Nosferatu(原題)』(↓前週4位)
430万ドル(-37.6%)/2545館(-537館)/累計8940万ドル/4週/Focus Features
8.『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(↓前週6位)
379万ドル(-25.9%)/2500館(-310館)/累計5757万ドル/4週/サーチライト
9.『ウィキッド ふたりの魔女』(↓前週7位)
355万ドル(-30.7%)/2352館(-615館)/累計4億6451万ドル/9週/ユニバーサル
10.『ベイビーガール』(↓前週8位)
202万ドル(-34%)/1460館(-427館)/累計2536万ドル/4週/A24
(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2025年1月20日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)
参照
https://www.boxofficemojo.com/weekend/2025W03/https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/mufasa-one-of-them-days-box-office-wolf-man-1236112641/https://variety.com/2025/film/box-office/keke-palmer-one-of-them-days-box-office-win-wolf-man-misses-1236278322/https://deadline.com/2025/01/box-office-wolf-man-one-of-them-days-1236259743/https://www.hollywoodreporter.com/business/business-news/film-tv-production-wildfires-la-1236111283/https://variety.com/2025/film/news/la-fires-bringing-production-back-1236277808/





















