『べらぼう』が大河ドラマだからこそ描けるもの インティマシー・コーディネーターに聞く

『べらぼう』吉原の描き方にどう向き合った?

“しぶとくて強い女性を描こう”の誓い

 仕事の流れとしては、まず台本を読み、インティマシー(親密な)シーンを抜粋した後、具体的な描写について監督にヒアリング。その内容を一人ひとりの俳優に面談で確認し、同意を得られたことのみ撮影で行えるという形となる。浅田氏曰く、日本の台本はト書きだけで分かることがとても少ないという。

「例えば、事後の設定ですと、2人がどういう状態でいて、布団をかけているのかどうかということが書かれていない場合が多いんですね。そうすると、俳優の皆さんが『あっ布団かけてないんだ……』『ここまで肌が出ちゃうのか』と撮影当日に困惑してしまう可能性もあるので、事前に細かいところまで確認し合って、全員でビジョンを共有しておくことが非常に大事なんです」

 今回のドラマでは、女郎たちのプライベートな部分も描かれている。山田氏によると、女郎の一日は午前6時頃に朝帰りする客を見送るところから始まるとのこと。そこから至福の二度寝タイムに入り、10時頃に起床。正午までは自由時間となるが、その撮影にも意外や意外、インティマシー・コーディネーターが入っている。

「例えば、夏の暑い時期やリラックスしている時だったら、足を投げ出していたり、着物の襟元や裾が少しはだけたりしているかもしれません。そこに関しても、どれくらい肌が見えていいのかは個人差があるので、事前に確認を取っています」

 事前に同意した内容でも、撮影までに気持ちが変わることも十分あり得るため、当日は再度確認。問題がなければ、『大奥』の時と同様、必要最低限のスタッフだけが立ち会う「クローズド・セット」で撮影が行われる。こうした徹底的な意思確認は俳優のみならず、「キャストがしっかりと守られている」という観る側の安心感にも繋がるはずだ。

 朝顔のように悲劇的な運命を辿る女郎たちも多いが、山田氏は脚本家の森下と『しぶとくて強い女性を描こう』と誓ったことを明かす。

「吉原の女性たちは当然、人身売買の被害者ですよ。親兄弟を救うために借金をして、それを返すまでひたすら働かされ、最後は病気で亡くなる人もいる。でも、そんな中でも彼女たちは自分だけの力で顧客を引っ張って商売をして、どうにか借金を返済し、ちゃんと吉原の外に出て次に進もうとするんです。資料なんかを読むと、身請けされたけど、旦那に先立たれたり、家風に合わないという理由で追い出されたりした人もいたそうですが、それでもしぶとく生きている。みんな全然メソメソしていなくて、健気で強い。そういう女性たちを描きたいと思っています」

 その言葉を聞き、撮影中、空調が効いていてもなお暑いスタジオで、重たい着物と高下駄を身につけ、終始笑顔で撮影に臨む小芝の姿が頭に浮かんだ。幼くして親に売られた花の井も、強い意志を持って教養や芸事を身につけ、のちに伝説の花魁“五代目・瀬川”として市中に名を轟かせることになる。若手俳優の中でも屈指の実力派で、大河ドラマへの出演が待ち望まれていた小芝が体現する花の井の生き様にも注目したい。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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