松たか子が向き合い続ける“演じること” 「素直に正直に嘘をつきたい」
「“演じる=自分ではない人を生きること”」
――本作では3姉弟の人生の分岐点が描かれていますが、松さんご自身の分岐点となった作品は?
松:私が初めて出演させていただいた連続ドラマが『ロングバケーション』(1996年/フジテレビ系)で、18、19歳の頃でした。もともと舞台をやることを目標にこの仕事を始めて、ちょうどそのとき舞台のお話もいただいていたんです。当時の私は当然、舞台をやりたいと思いましたが、「連続ドラマも一つのチャンスだよ」と聞いて、「それならば、やらせていただきます」と言って出たんですよね。あのときあのドラマに出ていなければ、また違うお芝居の勉強の道があったと思うし、でも、そのおかげで自分自身が広がって、ほぐれた部分もある。それを分岐点というのかはわかりませんが、一つの選択だったなと思います。
――その経験が、今に活きていると感じることはありますか?
松:あの経験をしたことで、いいことも悪いことも含めて、自分でも思ってもみないことがたくさん起きました(笑)。ちょうど大学に入った年で、そこから忙しくなってしまって大学をやめたんです。でも、結局は「自分が選んだ」と思いながらやってきているので、とにかく「自分で選んだ以上は」と覚悟を持って頑張れるようになったのかなとは思いますね。すべてに気づけたわけではないけれど、そう思うきっかけになった作品だと思います。
――そうして俳優を続けられてきた松さんにとって、“演じる”とは?
松:“演じる=自分ではない人を生きること”なので、どうしても自分の経験だけでは成り立たなくて、どこかしら嘘をつくことになるわけですよね。だからこそ、そこに嘘がないようにしたいなとは思っています。「こうしたほうがよく見えるかな」「うまく言うためにはどうすればいいかな」ということに捉われずに、「ただ言う」とか「ただ向き合う」とか、相手のセリフを聞くところから生まれるものを信じたい。“素直に正直に嘘をつきたい”というのは、毎回思うことですね。
――何かを纏って演じるというよりも、その場で生まれた感情をそのまま出すような感覚なのでしょうか?
松:とは言いつつも、自分の中にイメージはあるんでしょうけどね。でも、そこに他の俳優さんや監督が関わると自分のイメージ通りにはいかないこともあるので、そこをどこまで面白がれるか。その場で起きたことを楽しめるほうがいいし、自分の正義だけを押し通すことがないように、気持ちの余裕は持っていたいなと思っています。
――本作は「自分の幸せ」が一つのテーマにもなっています。子育てをしていると自分の幸せは二の次になってしまうところもあるかと思いますが、松さんがご自身の幸せを考える瞬間はありますか?
松:本当にそうなんですよね(笑)。実は何年か前に「自分の幸せも大切にね」というお手紙をもらったことがあって、それでハッと気付いて「なるほどね」と。でも、自分が気持ちよく過ごせる部屋ができたり、自分が夢中になれるものがあったりすると、機嫌良くいられるじゃないですか。そうすると、それが家族にも伝染していくのをすごく感じるんです。だから、自分の幸せが家族の幸せになる。そして、家族の幸せが自分の幸せになる、というのが理想なのかなとは思います。「家族のために」と思いすぎてしまうと、どうしても見返りを求めちゃうので、「期待をしない」ということをテーマにここ数年はやらせてもらっています(笑)。
――(笑)。たしかに、「やってあげている」と思うと悪循環に陥りますよね。
松:「やってあげたのに」と思うと、本当にろくなことはないぞ、と。それはもう、たくさんの先輩方の言葉から学びました(笑)。でも自分がいい状態でいると、本当に家族も気分良くなっていくんですよね。そういう意味でも、自分を大切にするのはすごくいいことだなと思っています。
■放送情報
新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』
TBS系にて、1月2日(木)21:00〜放送
出演:松たか子、多部未華子、松坂桃李、星野源、チュ・ジョンヒョク、松本穂香、池谷のぶえ、倉悠貴、古舘寛治、宇野祥平、飯塚悟志(東京03)、菅原大吉、中村優子、毎田暖乃、リリー・フランキー、井浦新
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:小牧桜
スーパーバイジングプロデューサー:那須田淳
協力プロデューサー:韓哲、益田千愛
演出:土井裕泰
©TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/slowtrain/
公式X(旧Twitter):@SlowTrain_TBS
公式Instagram:@SlowTrain_TBS