“モンスター・ヴァース”の歩みを紐解く 『ゴジラxコング 新たなる帝国』が開いた新境地

今、かつてないほど世界にゴジラの映画が供給されている。しかも嬉しいことに、多種多様なゴジラが観られるのだ。こんな恵まれた時代は歴史上で初かもしれない。
ゴジラの母国である日本では、戦後間もない頃を舞台にした『ゴジラ-1.0』(2023年)が大ヒット。その勢いは留まるところを知らず、海を渡ったアメリカでも大ヒットし、なんと第96回アカデミー賞でアジア映画史上初となる視覚効果賞まで獲ってしまった。そしてつい先日には、地上波初放送後にゴジラ新作映画の製作決定がサプライズ発表され、ファンはテレビの前で狂喜乱舞。日本のゴジラ熱は高まるばかりである。その一方、映画の都ハリウッドが“モンスター・ヴァース”シリーズの最新作として放ったのが、『ゴジラxコング 新たなる帝国』(2024年)である。こちらも公開されるやいなや、世界中で大ヒット。映画レビューサイトの「Rotten Tomatoes」の観客満足度では、モンスター・ヴァース史上最高得点を叩き出した。
1月、WOWOWでは『ゴジラxコング 新たなる帝国』がテレビ初放送。1月22日には本作の再放送も控えており、“モンスター・ヴァース”シリーズのこれまでの4作品はWOWOWオンデマンドでも配信中だ。最新作に合わせて特集番組を組むなど、WOWOW的にもかなり気合を入れているようだ。今回は『ゴジラxコング 新たなる帝国』の放送に合わせて、同作の魅力について語っていきたい。

まずはじめに、“モンスター・ヴァース”とは何かを、その歴史と共に簡単に書き出そう。
モンスター・ヴァースとは……超ザックリと言うなら、ゴジラとキングコングが主人公の映画シリーズである。このシリーズは『GODZILLA ゴジラ』(2014年)から始まったが……その後の道のりは、決して平坦ではなかった。ギャレス・エドワーズ監督が手掛けた同作は、彼らしい「怪獣が実在する光景」を生々しく見せてくれたが、一方で怪獣同士のバトルが直前であえてカットされるなど、「外し」の多い映画でもあった。この点を反省したのか、続くキングコングの主演作『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年)では、基本的に怪獣が出まくり、キングコングが戦いまくり。我らモンスター・ヴァースの個性は怪獣同士のブン殴り合いにあり! そう見出したのか、シリーズ3作目の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)では、ゴジラ以外にもモスラやラドンといった、お馴染みの怪獣たちが総出演。どんどん人間たちの登場時間は減っていったが、怪獣たちは活き活きと大破壊を繰り広げ、とんでもない大バトルを繰り広げた。
そして満を持して制作されたのがモンスター・ヴァースのW主役『ゴジラvsコング』(2021年)である。放射熱線という必殺の飛び道具を持つゴジラと、デカい猿にすぎないキングコングでバトルが成立するのか? 多くの観客は不安に思ったが、戦艦に乗り込んで来たゴジラに対し、キングコングが怒りの右ストレートを叩きこむ驚異の予告編で世界中のファンは大熱狂。ゴジラとコングが何度も戦うバトルアクションに特化しており、本編での両雄の対決シーンは、互いの個性を引き出す怪獣プロレス名勝負数え歌となった。
人間たちの役割はますます小さくなり、香港とアメリカが地下トンネルで繋がっているなど、1作目のリアル指向はどこへ行ったのかと問いたくなる感じもあったが、「ゴジラとキングコングが戦う」と聞いて、観客が求めるものは全て詰まっていた。しかし何より重要なのは、同作のラストだろう。いろいろあった後に、ゴジラがキングコングに助けられて「猿野郎、ひとつ借りが出来ちまったな。今日のところは帰るとするぜ」と言わんばかりの顔で静かに去っていく渋い名演を見せたのだ。1作目に比べると映画全体としては敷居が下がったが、これは同シリーズに“魔法”がかかった瞬間でもあった。この怪獣同士の対話を持って、同シリーズは人間ドラマならぬ、“怪獣ドラマ”となったのである。怪獣たちが劇中の人間以上に感情豊かに振る舞う。時にぶつかり、時に力を合わせる怪獣たち。この怪獣ドラマこそが、“モンスター・ヴァース”最大の個性となった。日本が『シン・ゴジラ』(2016年)や『ゴジラ-1.0』においては、敵対怪獣を出さず、人間vsゴジラという構図にしているのとは好対照だ。