山崎エマ監督が語る『小学校~それは小さな社会~』 教育について考えるちょっとした時間を

『小学校』山崎エマ監督インタビュー

日本の学校教育がつくる「小さな社会」

ーータイトルに入っている「小さな社会」に込められた意味はなんだったのでしょうか?

山崎:小学校の中はまさしく『小さな社会』という通り、ある意味1つの小さな社会をそこにいる人間が作っているんです。1年生の時から配る係とか、電気つける係とか与えられて。それで、高学年になれば放送委員とか保健委員とか、その学校のための役割があって。もちろん大人の下支え、大人のサポートがあるんだけど、そこにいる子どもたちが、自分たちの学校のために行っている。みんなスローガンを決めるのに燃えたりとか、運動会になったら団結したりとか、その中で役割を見つけて責任を果たす。そういうやり方が成立しているんです。

ーー確かに。

山崎:だからある意味理想的な、それぞれに責任があって、思いやりもあって、助け合いながらやっていくみたいな環境ですよね。それが日本の今の社会にも反映されている。時間通りに電車が来て、人々が譲りあって、配慮がある、とか。会社員であっても、社会の中でも、何かに対して、自分の職に対する責任とか役割を見つけて、そこに全うする色が強い社会だなと。小学校のときは、いま言ったことが結構理想的に動いています。でもそれがズレていくと、たとえば集団に対して違うことやりたいなとかっていうときに、自分のアイデンティティが崩れてしまう。その両方が交わって、日本のいいところと悪いところ、小学校、日本の社会はそうなっているのかな、みたいな感覚です。

ーー子どもたちもそうですし、先生方の役割についても、かなり特徴を捉えていると感じました。

山崎:先生って本当に難しい職業だと思います。特別活動とか行事を通してどう子どもを導くのか。直接言うのではなく、子どもからしたら自分でやってできたって思わせるためにどうやるのか。心を通わせて、一人の先生が何十人も見る。そんな難しい職業はないですよね。親御さんへの対応とか、いろんな上から降ってくる手続きとかもある中で、先生は本当に大変です。これだけ柔軟力と同時に信念が求められる職業ってないんじゃないかと思います。


ーー映画の中で先生方の葛藤や苦労も印象的でした。撮影を通して見えてきた部分はありますか?

山崎:やっぱり先生たちも人間です。先生の立場って、子どものころは何にも分かってない。先生も子どもの前とか親御さんの前ではちゃんとしないといけないって感じていて、悩みなんか打ち明けられたら、親御さんも不安になってしまう。「自信ない人が何やってるかわからない」とか。なかなか打ち明けにくいけど、みんな正解がない中で、悩みながらやっている。職員会議とか、先生同士の支え合いがあって学校が成立しているんです。1人1人の先生が個別に悩んでいるところも映しているけど、それを共有できるのが教員同士しかないのが難しいところです。本当はもうちょっと先生方と学校側の中の悩んでいるところも含めて、もうちょっとオープンになれば、親御さんがより協力するんじゃないかとか思いました。

ーー私自身も、本作を観て思うことがたくさんありました。

山崎:今回の映画の1つの反響で、「こんなに先生たちが考えている、悩んでいるなんて知りませんでした」とか、「親としては文句ばっかり言って協力してないけど、こんなに考えてやっているなら……」「私も協力しないと」みたいなお母さんがたくさんいました。

ーー海外の教育関係者からの反応はいかがでしたか?

山崎:先生という職業は、いま世界中で本当に大変な仕事だというのが共通しています。地位とか給料とか、こんなに低いのに、社会の大きなところを担っている。教育ってすぐに感謝されることでもないですし。私も、自分の小学校の先生のありがたみを感じたのって、15年とか20年後なんです。でも、この映画を観て、海外の先生も日本の先生も、やっぱり自分たちのやっていることの尊さや大事さに改めて気づけたから頑張れます、みたいな反応も多かったです。当たり前の日常なんだけれども、それをこうして映像に残すと、気づくことがあります。

ーー山崎監督はこれからの教育について、どのようなことを考えていらっしゃいますか?

山崎:日本の小学校のやり方は、先生たちが膨大な労力を費やすシステムだから、それはいま見直されているところですよね。ただそれも見直されるべきだとは思うのですが、その背景には、社会が何を求めているか、親であったり、そういう制度を作っている人たちが、掃除とか給食の配膳の真の意味を理解しているのか、という観点が大事だと思います。自分たちのことを自分たちでやることを学ぶためとか、運動会だって別にかけっこだけの話じゃなくて、何か1つの行事に向かって力を合わせたり頑張って乗り越えたことで、子どもの成功体験になって自信になるというようなこと。その意味もわかった上で、やっぱり行事は丸1日じゃなくて半日で終わらせてもいいよねとか、そうなればいいと思います。実際のところでは、削りやすいところを削っていこうとなっているのか、そこがわからないところですが。

ーーまさに教育について、すべての人が考えるべきポイントだと思いました。

山崎:この映画の公開をきっかけに、日本中に教育について考えるちょっとした時間を作りたいなと思うんです。やっぱり教育界ではみんながいろんなことで悩んでいるのですが、社会があまりにもそれに繋がってなくて。親である、子どもがいるいないに関係なく、日本の未来を作るのは、この子どもたちが学んでいることとか学び方とか、何が優先されているかだと思うので。全員が自分ごととして、今までのいいところとこれからやるべきところを、それぞれが気づいて、それぞれ話してみる。そういうことにちょっとでも繋がればいいなと思ってこの映画を作りました。

■公開情報
『小学校〜それは小さな社会〜』
12月13日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督・編集:山崎エマ
プロデューサー:エリック・ニアリ
撮影監督:加倉井和希
製作・制作:シネリック・クリエイティブ
国際共同製作:NHK
共同制作:Pystymetsä Point du Jour YLE France Télévisions
製作協力:鈍牛俱楽部
配給:ハピネットファントムスタジオ
宣伝:ミラクルヴォイス
2023年/日本・アメリカ・フィンランド・フランス/カラー/99分/5.1ch
©Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour
公式サイト:shogakko-film.com
公式X(旧Twitter):https://x.com/shogakko_film
公式Instagram:https://www.instagram.com/shogakko.film

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる